除染と避難のはざまで

きょう、
20日(金)夜8時放送の「東北Z」、
「除染と避難のはざまで」のナレーションを入れ終えた。
ナレーションを入れてしまうと、
番組ができたような気になってなんだかホッとする。

(*「東北Z」は東北管内放送のローカル番組)

今回は久しぶりに「である」調のナレーションを書いた。
ぼくはもともと「である」調が好きである。
その方が言葉の響きがいいし、表現の幅が広い。
往年のNHKの名物アナ・中西龍さんがナレーターを務める
「和賀郡和賀町」(’67)などのドキュメンタリーが大好きだった。
独特の歌い調子と緩急の妙は、
番組の作り手としてのぼくの血肉に擦り込まれている。
だから、ついついそういうナレーションを書いてしまう。
近頃こういうナレーション原稿は珍しいので、
アナウンサーのK君は苦労しただろうが、よく期待に応えてくれた。
どことなく古風な番組に仕上がって、
女房と畳以外は「古いものが好き」なぼくは、大いに自己満足をした。

番組は、
放射能に対する拭いきれない不安のなかで暮らす
福島の人たちの等身大の姿を記録しようとしたものだ。
それぞれが「除染と避難のはざま」で揺れながら生活しているのだが、
「除染」はなかなか期待するほどの効果を上げられそうにもなく、
かといって「避難(移住)」もまた
それまでの安定した生活をずたずたにしてしまう。
実際に家族離散に到っているケースも多く、
それが子供たちの成長に及ぼすリスクと
放射能による健康被害のリスクとどちらが大きいか、
にわかには断定しがたい。
自分で作った番組だが、見終わって溜め息しか出ない。
“読後感”が重く、グルーミー(陰鬱)である。
被災地としての福島は、一年近くたってなお、先行きが見えないままだ。
もとより見て楽しい番組ではないが、これが日本の現実であるに違いない。
東北地方にお住まいの方は是非ご覧ください。

仕事を終えて、文化横丁の居酒屋「源氏」で飲んだ。
この店は、酒を一杯頼むごとに肴が一品ついてくる独特のスタイル。
古い木のカウンターで独り盃を傾けていると、しみじみ落ち着く。
番組の山場を超えた夜に飲む酒は、いつに増して旨い。


いつごろ作られたものだろうか、
如何にも古色蒼然とした燗つけ器があって、
なかなかぼく好みの温燗にはならないのだが、
この器械から出てくる酒ならなんでもいいと思わせる魔力がある。
(ちなみに銘柄は秋田の「新政」である。)
割烹着姿の女将も、
忙しく立ち働きながらもどこか古風で落ち着いた雰囲気があり、
厨房にこもっていて姿を見せない板前さんの腕も確かだ。
この季節、お通し(の二皿目)として出てくる湯豆腐、
別注文の赤ナマコも旨い。
酒だけを飲みたい大酒飲みには物足りないかもしれないが、
小津安二郎ちっくにちびちびやるにはうってつけである。
月島の「岸田屋」、大阪は阿倍野の「明治屋」…
こう並べてみると、酒場はやっぱり古いほうがいい。

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