養老牛温泉・湯宿だいいちで涼しい夜を

酷暑の東京を離れて北海道に飛んだ。
妻の一週間の夏休みを涼しい北海道で過ごそうというわけだ。癌がどこかで神経を圧迫しているのか、坐骨神経痛に苦しんでいるぼくは移動が少しつらいが、数時間の我慢さえすれば別天地である。
東京ではあまりの暑さに外出する気にもなれず、一日中クーラーの効いた部屋にこもって音楽を聴いたりしている。北海道の釧路には24年前に老後を過ごすつもりで建てた家があるが、そこにはもちろんクーラーなどはない。扇風機さえ必要ないのである。

今回は釧路の家に直行せず、根室中標津空港に飛んで養老牛温泉で一泊するスケジュールを立てた。

(羽田空港から根室中標津空港には一日一便ANAが飛んでいる)

泊まったのは「湯宿だいいち」で、ぼくたち夫婦にとっては定宿のようなものだ。今回は2年ぶりだろうか。いつものように空港まで女将さんが車で迎えに来てくれる。

(今回は渓流沿いの窓の大きな洋室に宿泊)

養老牛温泉は摩周湖の裏側に位置する静かな温泉地で、ぼくが若い頃、養老牛温泉には、だいいちを含め4軒の宿があった。それが次々に廃業し、今回訪ねるともう一軒残っていた「ホテル養老牛」も廃業して、結局、「だいいち」だけが残った。
だいいちを経営している御一家はもともと地元の人ではなく、外から入ってきて(名古屋出身?)最後発で宿を開いたという。
5部屋から始めたらしいが、廃業した旅館の土地・施設・泉源を買い取るなどして、少しずつ規模を拡大してきた。いまではモダンな新館もできて38部屋。多くの若い人たちが忙しそうに立ち働く人気の宿だ。
立派だと思うのは、規模を拡大しても料理やサービスの質をきちんと維持していること。高級旅館という感じではなく(首都圏に比べれば宿泊費も安い)、アットホームな雰囲気のある居心地のいい宿だ。
温泉の泉質はナトリウム・カルシウムー塩化物・硫酸塩泉で、渓流沿いにいくつもの露天風呂が設えられている。効能のイの一番に「神経痛」とあるのが嬉しい。

(ぼくのお気に入りは巨木を刳り貫いた丸太の湯)

湯温はそれぞれの浴槽ごとに変えてある。室内の内風呂と丸太の湯が42℃と高めで、あとは38〜40℃くらい。

(これも丸太を刳り貫いた寝湯。温度は38℃と少しぬるい)

今回新たに32℃の「ぬる湯」が作られており、夏のさなかにぬるま湯に浸かる心地よさに寝落ちしそうになった。

女将さんによると泉源は70℃台から90℃台まで複数あって、川の水を引き込んだなかをパイプを通すことで適温までもってきているという。
浴槽ごとの温度管理は源泉の供給量を変えて調節しているそうで、つまりいずれも加水なしの100%源泉かけ流しである。廃業した他の旅館の泉源もあるので、湯量には余裕がありそうだ。

湯宿だいいちのもうひとつの魅力は食事がおいしいことで、特に地元の食材にこだわってるところがいい。

(やっぱり北海道というとカニのイメージになるんだろうなあ…)

この日は根室産の花咲蟹が出たが、正直に言うとこれはたいしたことはない。どうしても冷凍物を使うことになるだろうから、浜茹での味を知っているぼくらには随分物足りない味だ。
でも、本州からのお客さんには嬉しいご馳走だろう。主に羅臼産を使った刺身などもあるが、本当においしいのは、ギョウジャニンニクやフキなどの山菜、そしてヤマベである。

(ヤマベとギョウジャニンニク、フキの天ぷら)

ヤマベ(山女)は甘露煮、てんぷらで出て、いずれも美味。メインの料理はヤマベの塩焼きと羅臼産ガザエビ焼きの選択だが、ぼくは迷わずヤマベを選んだ。これも実においしい。

(最近は温泉宿では必ず完食するほど食欲が戻ってきた)

朝食はバイキング形式だが、地元の食材がずらり並んだ素晴らしいものだ。つきたての餅も供され、油断すると食べ過ぎて動けなくなる。
地元中標津で放牧で飼育されている牛から絞ったノンホモ牛乳が瓶で用意されており、並んだ途端になくなってしまうほどの人気だ。最近、放牧で牛を飼うこだわりの酪農家は少ないし、こんなの他で飲めないもんね。

そして、湯宿だいいちにはもうひとつ、他にはない魅力がある。天然記念物であり絶滅危惧種のシマフクロウを間近に見ることが出来るのである。

(この日のシマフクロウはちょっとご機嫌ナナメ?)

シマフクロウは日本最大のフクロウだが、開発によって棲息環境を失い、現在北海道で165羽が確認されているだけである。湯宿だいいちでは環境省と協力して給餌作業を続けているので、
ほぼ毎晩、シマフクロウがロビーの前の生け簀に姿を現わす。(つがいで現れるときもある。)シマフクロウが現れると場内放送で知らせてくれるので、食事を中断してカメラを手にロビーへと走る。
ただし、最近はちと人気が過熱気味で、ロビーに宿泊客が殺到してラッシュアワー状態、なかにはフラッシュを焚く非常識な人もいるので、シマフクロウが神経質になってしまうのである。そのためか、この夜のシマフクロウはほとんどロビーに背を向けていて、いままでに比べて短い時間で飛び去ってしまった。ぼくは3枚撮るのがようやくだった。

養老牛温泉の湯宿だいいちで温泉三昧の涼しい夜を過ごし、一夜明けてバスで釧路に入った。
クーラー無用の我が家で日曜までのんびりとする予定。










コメント

  1. 僻地外科医2019年8月31日 10:36

    ツイッターはやっていませんので、知人からの連絡で訃報を知りました。
    ご冥福をお祈り致します。

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