〝父の日〟の網代温泉

週末に妻と二人、静岡県の網代温泉に泊まりに行った。仕事で中国駐在中の息子が
“父の日”に温泉旅行をプレゼントしてくれたので、半月遅れでありがたく頂戴したのである。
息子はずいぶん太っ腹な予算を提示し、いくつかの旅館・ホテルを候補としてリストアップしてくれた。そのなかから網代温泉の「竹林庵みずの」に決めた。

(網代温泉…前回来訪時・6月3日撮影)

網代温泉には先日も来たばかりである。熱海の陰に隠れてひっそりと落ち着いた佇まいがぼく好みだ。海に近いので魚が美味いのはもちろんだが、加水・加温なしの源泉かけ流しの宿が多いのが気にいっている。さらに言えば、新幹線や特急踊り子号を使えば東京からの交通の便もいい。

ぼくはいま療養中心の生活で、一日の大半を自宅で過ごしている。もともと暑さに弱いので、この季節は外を歩くのはつらい。そのうえ服用している抗がん剤の副作用の関係で、長時間の水仕事や包丁を使うのはできるだけ避けるようにしている。してみれば、本を読んだり、DVDで映画を見たりだけの毎日で、ややもすれば気分まで病人くさくなってしまう。それでは良くないと言うので、妻と息子が相談をして温泉旅行に連れ出してくれたのである。実際、ちょっとした旅行は心身のリフレッシュになる。温泉で新陳代謝が活発になるのに加え、家にいるばかりでは食欲もないが、新鮮な海産物が期待できるとあって食欲も湧く。

(竹林庵みずの…雨に濡れた紫陽花が綺麗だった)

「竹林庵みずの」は温泉街からちょっと離れた山の中腹にあって、静かで落ち着いた和風旅館である。梅雨時で天気はあいにくだったが、相模湾を一望できる展望露天風呂や貸し切り露天風呂がある。

(大浴場に付属する露天風呂。目の前に初島が見える)

各部屋にも露天風呂が設えられており、これが素晴らしい。

(和室のバルコニーに露天風呂。もちろん24時間入浴可能)

高温の自家源泉を熱交換器でさましているらしい、100%の源泉かけ流しである。

(泉質はカルシウム・ナトリウムー塩化物温泉)

ちょっと緑色に濁ったお湯で、舐めるとかなり塩辛い。温泉好きのぼくは14時のチェックインから何度も入浴を繰り返し、すっかり気分が良くなった。

この旅館には新潟から移設してきた古民家を改造した別邸があり、お願いをしてちょっと見学させてもらった。

(別邸へと続く渡り廊下には古民具が飾られていた)

客室そのものはモダンな和洋室に改造されているが、古木を惜しげもなく使った梁や大黒柱が重厚である。

(昔ながらの梁とモダンな和紙の照明を組み合わせてある)

ぼくは和洋を問わず古い建築物が好きなので、こういうのはこたえられない。

食事は期待に違わずおいしかった。造りをその場ですりおろした本わさびを薬味に食べるのは、まさに伊豆ならではの醍醐味である。

(鱧、金目鯛、あおり烏賊、鯛、鮃、雲丹、鯵のたたき)

カサゴの唐揚げ、和牛の冷しゃぶ、金目鯛の煮付けと並ぶ献立は、それぞれとても旨い。いまのぼくには多すぎて食べ切れないが、健康な時だったとしてもようやく食べられるほどのボリュームである。ご飯も谷中生姜にじゃこを散らしたものでおいしかったが、これはごく軽い一膳で勘弁してもらうことにした。ぼくはもちろん、もったいないとぼくが残したものを食べた妻もお腹がはち切れそうになった。それでも、オレンジのゼリーにバニラをのせたデザートは、さっぱりしていてペロっと食べたから、やっぱり別腹ということなのだろう。

翌朝は二度朝湯を使い、妻に腰や腹に鍼を打ってもらい、定番の鯵の開きなどのおいしい朝食を食べ、ゆっくり休んでから東京に戻った。すっかり元気を取り戻したぼくを見て妻はとても喜び、これからは月に二回、こうした温泉小旅行に出かけようという。贅沢な話ではあるが、
ぼくは在職時代、出張や単身赴任で仕事優先の日々を過ごしてきたし、妻はいま現在も鍼灸師として毎日遅くまで働き続けている。二人に残された時間がどれだけあるかはわからないが、
夫婦でともに過ごす時間を大切にしたい。東京に戻ってさっそく、今度は湯河原温泉を予約した。











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