十勝川温泉・三余庵

海と港町が好きなぼくは釧路が好きだ。
それに対し妻は帯広の方がいいという。
釧路の家を売って帯広に住もうなどと無茶を言う。

妻が帯広びいきなのは、すぐそばに十勝川温泉があるからだ。
泥炭成分が混じったモール温泉は茶色に濁って、
独特のぬるぬる感があって「美人湯」とも言われる。
去年の秋、妻の誕生日を祝って、
十勝川温泉の「三余庵」という宿に連れて行った。

三余庵は十勝川第一ホテルの別館で、全11部屋のちいさな宿だ。
すべての部屋に源泉を引いた個室風呂がついている。

(去年11月に泊まった部屋…全室に桧の個室風呂がある。)

泉質がよくて食事が美味しく、部屋がモダンで綺麗…
妻の好みにぴったりで、大喜びした。
また行きたいというので、
仕事で思わぬ収入があったのを機に、正月明けに再訪した。

ぼくはマニアックな温泉好きで、年に何度も温泉旅行をする。
ただし、ぼくが好きなのは、
例えば去年の暮れに訪れた岩手県の鉛温泉・藤三旅館のように、
鄙びた温泉地の、湯治場の趣を残した宿だったりする。

(藤三旅館の「白猿の湯」…自噴の岩風呂は日本一の深さだという。)

ほとんどが和室で、建物は古く、妻の好みには合わない。
だから、多くの場合、一人旅だ。
〝源泉かけ流し原理主義者〟なので、
どんなに綺麗な宿で食事がおいしくても
循環式の風呂などもってのほかだと思っている。
その点、三余庵は泉質の面でぼくの気難しい基準をクリアする。

(三余庵・三階「春の海」の個室露天風呂)
(露天風呂からは日高山脈に沈む夕陽が見えた。)

今回泊まった「春の海」はメゾネット・タイプの広い部屋で、
個室露天風呂がついている。
十勝川温泉の源泉は55℃と熱い。
だから三余庵でも、大浴場は加水して入りやすくしてある。
その点、個室風呂は源泉100%なので、
お湯を入れてから少し冷まして入浴する。

(お湯を冷ますために置いてある氷…使う必要はなかったが。)

風呂桶の傍らに氷の塊が置いてあった。
熱すぎる場合は氷を入れて冷ましてから入るようにとの配慮だ。
しかし、季節は厳冬。しかも露天風呂。
夜には−10℃にも冷え込むのである。
氷で冷ますような状況にはなく、
むしろぬるくならないことに驚くほどだ。

(造り…左上から時計回りに大助、甘海老、つぶ貝、あおり烏賊)

三余庵は地元の食材をふんだんに使った食事が大変美味しい。
魚も多くが北海道で獲れたものだし、
(ぼくは山の中の温泉で鮪の刺身が出たりすると怒り狂うw)
野菜や乳製品は十勝の農家から仕入れている。
宿泊費は、ぼくが一人で行く宿の倍以上するけれど、
それだけの価値はある。
(ただし、あまり一人で行く気にはならない。)

(真冬の夜、熱い露天風呂に入るのはいいものである。)

妻は夜遅くには、
もう裸で外に出る勇気はないといって大浴場に入りに行った。
ぼくは深夜まで露天風呂での入浴を愉しんだ。
しばれた外気とほどよく熱いお湯のコントラストが
まるでサウナのようで心地よい。

(ぼくたちが眠りについた後、雪が降り出したらしい。)

翌朝起きると、露天風呂がうっすらと雪化粧していた。
新雪に裸足の足跡をつけながら風呂に入った。
野趣溢れる雪見の朝風呂もまた結構なものであった。



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