湖の秋・水中篇

28日、屈斜路湖にヒメマスの産卵行動を撮りに行った。


屈斜路湖は火山爆発の影響で水が強い酸性となり、ぼくが若い頃には「魚の棲めない湖」として知られていた。阿寒湖からヒメマス(チップ)を移植しようとしたこともあったらしいが、
失敗に終わったようだ。しかし、その生き残りが繁殖をして少しずつ増えたのか、最近ではかなりの数が棲息しているらしい。秋のこの季節には、湖畔からルアーを投げる釣り人の姿も多く見られるようになった。


ぼくは車の運転ができないので、JR釧網線で摩周駅(昔の弟子屈駅)まで行って、いつもお世話になっている知床ダイビング企画のスタッフにピックアップしてもらった。ぼくはこの釧網線と釧路〜根室間の花咲線を「サファリ列車」と勝手に呼んでいるのだが、この日も車窓から、林の中に立つ立派な角を生やしたエゾシカの雄、牧草地で餌をついばむタンチョウを10羽以上見ることができた。
…と思ったら、エゾシカの群れが前を横断したとかで、センサーが働いて汽車が緊急停止、到着が10分ほど遅れてしまった。

※SLではないが、北海道ではいまでも一般に「汽車」と呼ぶ。ディーゼルなので「電車」とは呼べず、一両編成なので「列車」とも呼びにくい。


屈斜路湖畔の林道に車を止めて、湖に入る。ダイビングとはいっても深さ1mぐらいのところで、足が立つ。当然、エアの消費量が少ないので、1時間でも2時間でも平気で潜っていられる。ぼくの場合は、エアより先にカメラがバッテリーアウトになった。 


ヒメマスはすでに朱色の婚姻色に染まっている。スマートな流線形のボディが♀で、ずんぐりした背っぱり体形が♂である。群をなして互いに接触しながら動くのは繁殖期の特徴らしいが、♂同士のじゃれあいや♀同士の追っかけっこが目立ち、本格的な産卵に入るのはどうやらもう少し後になるようだ。


とはいえ、直接目にすることはできなかったが、すでに産卵した個体もいるようで、その証拠にヒメマスの群れにまとわりついているウグイには、卵を食べてお腹がぱんぱんに膨れ上がっている奴もいた。屈斜路湖から流れ出す釧路川にはダムがないので、海から遥々川を遡ってきたのだろう、ヒメマスの降海型であるベニザケの姿も見られた。ヒメマスに比べて二まわりも大きい堂々たる体形で、体色はその名の通り真っ赤に染まっている。ぼくも一匹見たが、見事なものだった。残念ながら、そのときにはカメラがバッテリーアウトしていたが…。従来から北海道に棲息しているのは陸封型のヒメマスだけで、川を下って海で成長するベニザケは千島列島の択捉島が遡上の南限と言われてきた。しかし、最近では、毎年数尾が屈斜路湖まで遡上しているようだ。(自然に生息域が広がったというより、放流事業の成果だろう。)

ダイビングを終えて昼食。摩周駅前の「ぽっぽ亭」でなかなかおいしいラーメンを食べる。最近の釧網線は本数がずいぶん削減されており、摩周駅から釧路行きの汽車は12時16分の次は17時23分になる。待ち時間が長いので、駅に荷物を預けて日帰り入浴で摩周温泉・ホテル摩周に行った。


入浴料は400円。当然ながら、源泉かけ流し。アルカリ性で、肌がぬるぬるになる、いいお湯である。ゆっくりと入浴して汗を流して17時23分の汽車に乗ったら、今度はエゾシカと衝突したとかで急停止、また遅れてしまった。センサーは働かなかったのだろうか?

コメント