大人の休日倶楽部の旅(2)・嶽温泉 山のホテル

9時45分、きのうも乗ったボンネットバスで、松川温泉を発つ。この便を逃すと、午後になるまでバスはない。


地元のおばちゃんによると、曲がりくねった雪の山道を登れるバスが他にないので、古いバスをメンテナンスしながら使っているそうだ。冬季間だけの運行で、してみれば、何も知らずに来てこのバスに乗ったぼくは運が良かったのだろう。なにせ日本にもはや数台しかないという話らしいから。

盛岡駅から新幹線で新青森へ。この間はトンネルばかりで旅の風情も何もあったものではない。特急つがるに乗り継いで、弘前へ。この街には、四半世紀の昔、けっこう通った。青森県がリゾート法の指定を受ける直前で、様々な思惑が飛び交い、岩木山周辺の町はどこか浮き足立って見えた。戦後、岩木山麓での国営パイロット事業が失敗して、事業に参加したリンゴ農家のほとんどが莫大な借金を抱えていた。あわよくば、リゾートブームの波に乗って土地を売り、起死回生をもくろんでいたのである。
それから10年ほどして、リゾートブームの行く末を見届けようとぼくは再びこの地域を訪ねた。そのときには、ブームはまさに泡沫のように弾けた後で、リンゴの果樹園だったところが
荒れ果てるにまかせて見棄てられていたのは無惨な光景だった。

弘前からバスで1時間ほど走って嶽温泉に着く。


リゾートブームの当時、取材の拠点として何泊か泊まったところだ。きのう松川温泉で青森の御夫婦と話していて思い出したのだが、小島旅館という宿で、食事がとてもおいしかったという記憶がある。今夜の宿は「山のホテル」で、その小島旅館に隣接しているのであった。


建物は比較的最近改修したのか、新しくきれいに見えた。トイレもシャワートイレが部屋ごとについている。もし、うちのかみさんを連れてきていたら、昨夜の松楓荘ではすっかり機嫌を損ねたに違いないが、この宿なら許してもらえるだろう。そのぶんだけ、秘湯の趣は希薄である。


風呂は二ヶ所にあって、露天風呂はない。泉質はいずれも同じで、酸性含硫黄―カルシウム―塩化物泉。白濁していて、硫化水素臭が強い、気持ちのいい湯だ。
当然、源泉掛け流し。宿泊客用の浴室(写真)の前には自家製の甘酒が用意されていて、
風呂上がりに甘酒とは珍しいが、これが案外いける。今回は蒲団を自分で敷くコースにして、
浮かせた予算で追加料理の鹿肉のたたき(864円)を注文した。我ながらなかなか合理的であるw


食事は宿泊費の割には美味しく、鮪、鰤、甘海老の刺身が出たのは感心できないが、舞茸の土瓶蒸しや桜しめじのずんだ和えなどぼく好み。リンゴのクリーム焼きも地域色があって嬉しい。


中に入っているのはグラタンで、鍋も蓋もリンゴだから当然食べられる。酒は「豊盃」など地酒三種類の利き酒セットを頼んだ。締めのご飯はこの宿の名物らしいマタギ飯。


鶏肉に舞茸、竹の子、牛蒡、人参などを混ぜて炊き上げたもので、先代の当主が熊狩りのマタギだったことからメニューに採り入れたものらしい。

昨日の松楓荘は素晴らしい泉質に特化した宿だったが。山のホテルは泉質・食事・設備のバランスがいい。万人向けというべきか。松楓荘もそうだが、昨今は山の中の宿でもWi-Fiが飛んでいて、こうしてブログを更新したりすることができる。「Wi-Fi完備の秘湯」というのも時代の趨勢なのだろう。

コメント

  1. 昨年かなぁ・・・ 民放ドキュメントで
     ようやく マタギ祭 復活したけど・・・
     お肉が???   という おはなしでした。 (ベクレル)

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