2015年10月19日月曜日

帰還困難区域の現実

放射線防護学者の安斎育郎さん
福島プロジェクト」のメンバーとともに、
先週金曜日(16日)、浪江町の津島地区に入った。
津島地区は福島第一原発から北西方向20〜30km圏に位置し、
全域が「帰還困難区域」に指定されている。
ぼくはテレビをほとんど見ない人間だから知らなかったのだが、
トキオ(というのがそもそも判らない…)が通っていた
「DASH村」というのがこの津島地区にあるそうだ。

安斎さんらが津島を訪ねたのは
住民の要請を受けて放射能汚染の実態を調査するためだ。
津島の住民は9月末、
地区の「原状回復」と総額65億円の損害賠償を求めて
国と東電とを相手に裁判を起こした。
第一陣の原告は32世帯117人だが、
最終的には住民の大半が提訴に加わることになりそうだという。
「原状回復」とは
きちんと除染して故郷に帰れるようにしてほしいという意味だが、
その前提となる放射能汚染の実態さえ
住民は正確には把握できていないのが現実である。
そこで安斎さんら「福島プロジェクト」の出番となるわけで、
住民とともに
地区内数ヶ所の汚染状況を面的に調べることになった。
ぼくも高放射線地域に立ち入った経験はあるが、
局地的・限定的な取材に留まっていた。
そこに住んでいた人たちとともに
放射能汚染がどう広がっているのかの実態を見るのは初めてだ。

住民との打ち合わせ。画面左が原告団長の今野秀則さん。

最初に調べた場所で
いきなり85μSv/hというホットスポットを観測した。
ちょっと窪みになったところに砂が溜まっているので、
林から放射性物質を含む水が流れ出てきて蒸発した跡だろう。

エンジニアの山口秀俊さんが毎時85μSvを計測した。

家屋の裏の林の中は空間線量が10μSv/hを超えており、
道路上で概ね5μSv/hというところだ。
いずれにせよ、ぼくがいつも取材をしている楢葉や南相馬、
あるいは福島市などとは文字通りケタ違いの汚染が残っている。

エンジニアの早川敏雄さんが測定器とともに歩き回って線量を記録する。

去年の9月に大熊町の中間貯蔵施設建設予定地を取材したが、
そこの空間線量が7μSv/hというところだったから、
津島地区は原発直近の地域と同等か、
あるいはそれ以上に汚染されていることになる。

4年半放置された家は雑草に覆われ荒れ果てている。

2011年3月15日、
福島第一原発2号機から出たプルーム(放射能雲)が
北西方向に吹く風に乗ってこの土地を通り過ぎていった。
そのとき、雪となって放射性物質が降り積もったのが原因である。
それにしても、
原発から20km以上離れた
緑豊かな山里でこれだけの汚染を目の当たりにするのは、
知識として知っていたとはいいながら、やはり衝撃的だ。
放射能は目に見えないだけに、どこか非現実的にさえ思える。

汚染土を採取する原子核物理学者・桂川秀嗣さん(左)と安斎育郎さん。

地区内の数ヶ所で放射線量を測定し、
移動のあいだも車内で線量計とにらめっこしていたが、
線量は上下するものの、
ついに1μSv/h(≒年間5mSv)以下にはならなかった。
5μSv/h程度に汚染された場所はざらにあるといっていい。
撮影スタッフが積算線量計を持っていて、
東京にいるときは1日1.3μSv程度の自然放射線による被ばく、
楢葉ロケ(いわき宿泊)で1.9μSvくらいを計測している。
ちなみに京都在住の安斎さんは同型測定器で1日2.0μSv前後だ。
(地質の関係で一般に関西の方が自然放射線量が高い。)
それがこの日の津島ロケでは半日で11μSvの被ばくを記録した。

津島の人たちは除染を望んでいるが、
政府が除染目標としている0.23
μSv/h(=年間1mSv)にまで
線量を落としていくのは容易なことではない。
安斎さんは、
除染したときに剥ぎ取る土や廃棄物が膨大な量になると指摘する。
放射性廃棄物を保管する中間貯蔵施設建設の目処が立たず、
政府の除染=復興計画はすでに事実上破綻しているが、
津島やその他の高線量地域の本格的な除染に着手すれば、
破綻は隠しおおせないものになるだろう。

津島の住民は全国各地でばらばらに避難生活を送っており、
地域に伝承されてきた慣わしや祭りは途絶えようとしている。
つまり、原発事故は、
営々と築かれてきた地域の歴史を断ち切ろうとしているのである。
もし津島(や他の高線量地域)に「帰れない」とするなら、
住民が新しい土地で
新しい人生を歩み始めるための腰を据えた支援策が必要になる。
同時に、歴史を抹殺した責任も改めて問われることになるだろう。
それを恐れてか、
政府は帰還困難区域の今後について明確な方針を示してはいない。
除染するような、しないような…
「問題の先送り」を決め込んでいるとしか思えない。

原発事故は様々な点で修復不可能な傷痕を地域に残す。
このブログでも繰り返し書いてきたことだが、
起きてしまえば取り返しがつかないのが原発事故である。
事故が起きたら影響が大き過ぎて対応のしようがないと言うので
「事故は起こらない」ことにしてしまったのが「安全神話」で、
これはいうなれば究極の「問題の先送り」だ。
その結果が今日の事態を招いているのに、
相変わらず都合の悪いところには目をつむって
「問題の先送り」を続ける政府、
そして、結果としてそれを容認している私たちの社会…。
福島で暮らしてきた住民のことは忘れ去られようとしている。
原発事故に起因する深刻な事態が現にあるにも拘らず
一方で原発の再稼動を進めようというのだから、
これは「愚策」という言葉で片付けていい問題ではない。
愚策には違いないが、それ以上に狂気の沙汰であり、
もっとはっきり言えば政府と電力会社の「犯罪」だとぼくは思う。

1 件のコメント:

  1. 全く同感です。
    最近の原発再稼働ニュースの中で「事故が起こった時の避難経路がまだ明確になっていません」とアナウンサーが言いますが、避難した後どうなるかといいう点は全く触れられません。
    記述されているような「福島の現実」が語られないのが不思議で仕方ありません。

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