2015年10月12日月曜日

翻弄され続ける“現場”から

金曜、土曜と一泊二日で、
新潟県加茂市に愚安亭遊佐さんの一人芝居を撮影に行った。
公演会場は加茂駅にほど近い「シアター遊佐」、
もともと夫人の御母堂が
眼科医院を開業していたスペースを改造したもので、
50人も入ればいっぱいいっぱいのミニシアターである。
愚安亭遊佐さんはいま夫人とともに加茂市に暮らし、
この小劇場をホームグラウンドにしている。

新潟県加茂市、人口28000人の落ち着いた街だ。
シアター遊佐。表札はかつての眼科医院のままだ。
小さな舞台を囲む大漁旗は全国の漁師から寄贈された本物である。
愚安亭遊佐、こと松橋勇蔵さん(シアター遊佐にて)

愚安亭遊佐さんは本名・松橋勇蔵、1946年生まれの69歳である。
青森県の下北半島、
現在のむつ市関根浜に網元の五男として生まれた。
東京で過ごした大学時代にアングラ芝居の洗礼を受け、
「劇団三十人会」を経て
「劇団ほかい人群」を結成、役者の道に入った。
1979年、母の死をきっかけに、
母をモデルにした一人芝居「人生一発勝負」を作り、
全国行脚の旅に出た。
その途上、生まれ故郷の関根浜に立ち寄ったとき、
原子力船むつの新母港として関根浜が選ばれるという問題に直面する。
「むつ」は1974年の試験航海で放射線漏れ事故を起こし、
母港のむつ市大湊をはじめ
日本中の港に入港を拒否され、行き場を失っていた。
同じむつ市だが津軽海峡に面した関根浜を新母港にするという話は、
1981年1月1日の読売新聞の“スクープ”に端を発し、
寝耳に水の地元をてんやわんやの大騒動に叩き込むことになる。
日本初の原子力船の落ち着き先をなんとか決めたい政府・自民党、
「むつ」がもたらす交付金など経済効果を期待する青森県とむつ市、
ホタテ養殖が軌道に乗り始めていたむつ湾を
原子力船の基地にすることだけはなんとしても避けたかった青森県漁連、
三者の思惑の一致するところが関根浜の母港化で、
地元の漁民にとってはいきなり降って湧いたような話だった。
こうした経緯(いきさつ)は
それ以前もその後も幾度となく繰り返されてきた、まさに「よくある話」。
国策に翻弄され続けてきた「現地」の典型ともいうべきものである。

愚安亭遊佐さんの生家である松橋家は、
関根浜に最初に定住した一族だった。
それだけに兄弟は「新母港絶対反対」で結束する。
なぜ大湊では許されないものが関根浜ならいいのか…
当然の問いかけである。
しかし、県などの分断工作によって、反対派は次第に切り崩されていく。
兄弟とともに反対運動の先頭に立っていた愚安亭遊佐さんは、
今度は父をモデルにした一人芝居「百年語り」を作り、世に問うた。
今回の演題はこの「百年語り」である。
数年続きの飢饉から逃れようと
祖父が幼かった父親らを連れて関根浜に住みついてから百年足らず、
その間に一家の営みは戦争に伴う砂鉄の掘削や、
戦後の米軍実弾射爆場設置などの国策に翻弄され続ける。
それも片付いてようやく安定した暮らしが成り立とうとしていた矢先に、
今度は原子力船の新母港化が持ち上がり、
一家は虎の子の漁場を失うのである。
愚安亭さんの芝居は実話に依拠したいわば「実録」で、
現実を題材にしながら現実を昇華して、
国策に翻弄され続ける民衆の怨嗟を描くことで普遍性の高みに達している。

愚安亭さんはその後、
隣の六ヶ所村でも
核燃料サイクル基地建設で同じことが起きているのを知って、
一人芝居の第三作「こころに海をもつ男」を作り、
さらに東日本大震災の後には、
下北半島の原子力化に反対を続けた兄をモデルにした
下北シリーズ(とぼくは勝手にそう呼んでいる)30年ぶりの新作、
「鬼よ」の上演を始めている。
ぼくは今回の「百年語り」で下北半島四部作を全部見たことになるが、
それぞれが無告の民の魂が愚安亭さんに乗り移ったような芝居で、
芸能に昇華された日本列島の民衆史であり、稗史であると思う。

ぼくは「戦後史証言」という番組の制作過程で愚安亭遊佐さんを知り、
この人のことをなんとか番組にしたいと考え続けてきた。
基本的に年にひとつの演題の公演を続けるスタイルなので、
一昨年秋「こころに海をもつ男」の舞台を撮り、
去年の秋に「人生一発勝負」、今年「百年語り」を撮影した。
ここまでで三年がかりである。
来年「鬼よ」を撮り、
沖縄(辺野古)での公演話が進んでいるので実現すればそれを撮り、
そのうえでなんとか一本の番組に仕上げたいと考えている。
そのときにはぼくは既に定年退職になっているので、
なんらかの手立てを考えて放送にこぎつけたいと思う。
…やり残した仕事が多すぎて、なかなか成仏できそうにもない。

なお、愚安亭遊佐さんの一人芝居「百年語り」は、
シアター遊佐での公演を皮切りに14日〜17日には東京公演が行われる。
場所は新宿3丁目「SPACE雑遊」、
問い合わせは090−2328−1175(木本さん)。
ぼくはきょうから福島取材・ロケなので、残念ながらうかがえない。
興味のある方は是非見ていただきたいと思う。


後悔することはないはずである。

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