パステルカラーの北の海

8ヶ月ぶりに羅臼の海に潜った。
羅臼はいままで最も多く潜ってきた、
云わばダイバーとしてのホームグラウンドである。
しかし、この海に潜るときはいつも緊張する。
日本列島の北東の果てともいうべき知床の海は、
暗く、冷たく、荒れることも多い。
一年中、浮力のかかるドライスーツで潜るので、
当然ながらウェイトを重くせざるを得ない。
10kg以上を体につけて海に入ると、
潜り終わって陸に上がるときが大変である。
疲れている体にウェイトの重さは堪えるものだ。
息を弾ませながら這い上がろうとするのだが、
フィンを脱ぐのにモタモタしていると
容赦なく波が襲いかかってきて転倒することになる。

ブランクがあるときに羅臼に潜るのは気が重い。
まして病後初めてとあれば緊張もひとしおだ。
そのためにわざわざ先週は伊豆まで行って、
リハビリ・ダイビングをキメてきたのだ。

ところが。
羅臼の海は信じられないほど優しく迎えてくれた。
よく晴れて、気温も20℃くらいあったのではないか。
海は凪いでいて、波というほどの波はない。
水温は底で7℃前後とまだ冷たいが、
北海育ちのダイバーにとっては
拍子抜けするほど楽勝のコンディションである。
海に入ると、
まばゆい光が射す浅場には
オニコンブ(羅臼昆布)やガゴメコンブ、
ウガノモク(ホンダワラの仲間)などが密生し、
海藻のあいだでは様々な稚魚たちが群れ遊ぶ。
…極楽である。
ぼくはリラックスし過ぎて2本とも1時間以上、
2本目に至っては90分も潜っていたのだ。


イバラヤドリモエビというのは色が美しいエビで、
それが真っ赤な海鞘についているところは
暗い海の中でも艶やかな色彩感を感じさせてくれる。


この季節はベビーラッシュで、
毎年、出会うのを愉しみにしているのが、
海藻にちょこんと乗ったナメダンゴの幼魚たち。


ナメダンゴの幼魚は体長5mmくらいのものだが、
もう一回り小さく感じるのがホテイウオの稚魚。
ちょこちょこと動き回って、
オートフォーカスと老眼カメラマンを嘆かせる。


北の海は暗く色彩感がないように思われがちだが、
実のところかなりカラフルである。
特に浅いところに光が入っている日には、
色あいがパステルカラーにも感じられるのである。


藻の中に潜んでいたのはヤギウオ。
北の海には奇顔魚が少なくないがこれもそのひとつ。
なんてったってこの“クチバシ”…
実は下顎から出ているツノらしいのだが、ヘンな顔だな。


浅場にはホンダワラの仲間でウガノモクという海藻があり、
長いものは数メートルにも伸びて
流れのなかをたなびいている様子はなかなか壮観だ。
このウガノモクのなかには
イソバテングの幼魚が潜り込んでいる。
今年は当たり年でよく見るとたくさんいるのだが、
小さいうえに保護色で、
そのうえ藻が揺れるのでピントが追随せず苦労した。
…参考までに、こちらが親です。


6年前の11月に
同じポイント(羅臼ローソク岩)で撮影したもの。
このイソバテング、
なぜか北海道では「サチコ」と呼ばれている。
カウンターの中で水割りでも作ってくれそうな名前だ。


ウガヤモクの中にはシワイカナゴが卵を産み付けている。
だから撮影をしていると、
親らしい魚が気にして盛んに様子を見に来る。
色彩感がきれいなので撮りたいのだが、
レンズが90mm(35mmカメラ換算)の中望遠で、
動きまわる魚には滅多なことではピントが合わない。
撮りにくい被写体と悪戦苦闘して粘っていたため、
気がつけば90分も潜っているハメになってしまったのだ。

愉しいダイビングを終えて、
今朝のバスで釧路の自宅にやってきた。
今回の休暇は何もせず(金もないことだし)、
自宅にこもってじっとしているつもりだったのだが、
家の周辺が丈高い雑草に覆われているのをみて
目の前が真っ暗になってしまった…。


コメント

  1. カラフルですね。

    一般的に北の海は、冬の印象が強く残っているからか、モノトーンのイメージがありますが、そうでないんですね。生物種といい、波の状態といい、いいタイミングでしたね。

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    1. そうですね。
      一日だけで帰るのがとても勿体なく感じられました。
      マイレージがけっこうあって航空運賃がかからないので、
      なんとか休みを算段して
      いい季節のあいだにもう一度来たいなぁと思っています。

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