「バブル経済」考

最近、ネットでよく目にするのは、
バブルを知っているかどうかで世代が断絶するという言説である。
そうした主張の多くは
「バブル世代」以下の人たちによって行なわているようだが、
バブルを実体験として知っているぼくは
ある種の違和感を拭えないでいる。
あの時代、いい思いをしたのは、
たぶん大都市圏に住む一部の人たちだけではなかったか?
少なくともぼくにとっては、あれほど酷い時代はなかった。

バブルは虚妄で狂躁そのものだった。
東京ではやくざによる「地上げ」が横行し、
それまでの落ち着いた暮らしは根底から破壊された。
(しばしば放火など暴力的な住民の追い出しが行なわれた。)
サラリーマンは
遠距離通勤の郊外に高価なマイホームを求めるほかなく、
その後、当然のことながらローン破綻が続出した。
そして大都市圏以外は
地場産業が崩壊して荒れる一方だった。
こんなことを続けていたら、
日本はメチャクチャになるというのが取材現場での実感だった。

バブル経済は周知の通り

1985年のプラザ合意を機に始まるのだが、
その直前に悪徳商法が隆盛を極めた時期がある。
朝の主婦向け番組を担当していたぼくは
当時、悪徳商法を半ば専門に取材を続けていた。
その頃、永野一男という男がいた。
後にマスコミの面前で
暴漢に刺殺されることになる豊田商事の会長である。
その永野に次のような言葉があったのを鮮明に記憶している。

「いま一番割に合わないのは製造業、モノを作ること。

 これは絶対に儲からない。
 よりましなのは金融業で、在庫を持たずにすむから。
 一番いいのは(豊田商事など)ペーパー商法で、金が金を生む」

新聞でこの言葉を知ったとき、

賛同はしないまでも鋭いところを見ているヤツだと思った。
いま思えば、永野はバブル経済の到来を予見していた。
巧まずして、バブルの露払いの役割を果たしたといってもいい。

豊田商事がやったのは「実在しない金」を売ることだった。

金の現物はなくとも、
それが売れ続ける限りは
顧客に金利を払うことができ、資金は回る。
しかし、架空の金は、
永遠に売り続けることでしかビジネスとして成立しない。
所詮は大がかりな自転車操業であり、
当然にも行き詰まり、永野は殺された。
やがてバブル経済が本格化したとき、
ぼくが直観的に理解したのは、
名だたる大企業や銀行が
豊田商事と同じことをやり始めたということだった。
当然、よりスマートに、合法的に。
金の替わりに使われたのが「土地」だった。
土地は実在するが、
本来の価値以上の価格をつければ、
それは架空の金を売るのと同じ「ペーパー商法」である。
バブル時代、
土地は
収益還元法から導き出される
本来の価値を遥かに超えた価格で取引された。
まさに「金が金を生んだ」のである。
永野の言葉の通り、モノ作りは衰退の一途をたどった。
しかし、こんなことが続くはずがない。
自転車操業というより、社会全体がネズミ講化したのだから。
顧客が無限に現われることがあり得ない以上、
バブルは必ず崩壊する、遅かれ早かれ。

自らの不明を打ち明ければ、

「続くわけがない」ことに気がつくまでには
多少のタイムラグがあったのは事実である。
しかし、
バブルがモノ作りを根絶やしにし、
(農業を始めとする)モノ作りで成り立ってきた
地域社会を破壊するだろうことは早くから見抜いていた。
事実、
都市圏で行き場を失ったバブル・マネーは、
リゾート開発のかたちをとって地方に押し寄せていき、
山河を荒らし、地場産業を潰し、地域に荒廃だけを残した。

それからのぼくは

バブルの傷跡をたどることをライフワークの一つとしてきた。
日本列島の津々浦々(は、ちと大袈裟だが)を歩きまわり、
バブルが日本の経済を根底からダメにしたこと、
その後遺症がいまなお癒えていない現実を見つめてきた。
だから、
二度と経済のバブル化を繰り返してはならないと思うし、
夢見るべきでもないと確信している。
バブル経済を知る世代として、それだけは伝えたい。

一言付け加えておけば、
ぼくが今回の自民党大勝を絶望的に思ったのは、
日本人の多くがいまだにバブル経済をきちんと総括せず、
どこかで再来を待ち望んでいる気がしたからだ。
人口が減り、少子高齢化が進み、
生産年齢が減少する一方の日本にはもはや「需要」がない。
だから、経済は今後とも基本的には縮み続けるしかない。
そうした現実を直視しない、
自民党のいう「列島強靭化計画」は、
第二、第三のリゾート法に他ならない。
「人からコンクリートへ」の逆光が強行されれば、
アメリカに求められた「内需拡大」が
実需に向かうことなくバブル化した1980年代の二の舞いだ。
実体経済が弱体化している今度は、
間違いなく、日本は破滅に瀕することになる。
それだけは、危惧と確信をもって予言しておく。





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