周防正行「終の信託」


周防正行監督の新作「終の信託」をみた。
日曜日に観た映画だが、
“読後感”が重く、
いまも東京に向かう新幹線のなかで考えている。

これは一角も疎かにせぬ楷書のような映画である。
周防正行監督の演出は力を漲らせた正攻法に徹する。
特に後半かなりの時間をかけて展開する、
殺人罪に問われようとしている女性医師と
検事の対決の迫力には圧倒された。
かつて検事の取調室が映像化された例があったのか、
ぼくはすぐには思い出せないが、
あらかじめ用意したストーリーにはまるところまで
被疑者を追い込んでいく検事の追及ぶりは苛烈で、
その描写は実にリアリティがあり、
厚労省の村木厚子元課長の冤罪事件など
最近問題になった事例を思い起こさせずにはいない。
その点、周防さんの脚本(&演出)は、
これみよがしではない節度を保ちながらも
極めてジャーナリスティックである。

ここを間違ってはいけないのだが、
ポスターの惹句にいう
「医療か?殺人か?」という問いかけが
ジャーナリスティックだというのではない。
映画はそのストーリーラインを遙かに超えて、
人であれば誰しも避けられない「死」、
目を背けていたいその現実にどう向きあうのかという
普遍的なテーマにまで突き抜け、昇華している。
主人公の女性医師の行動が
例え医師としての職務を逸脱したものであったにせよ、
人の倫理として断罪することができるのか、
法は果たしてそれを裁けるのかという
俄には解答不能な問いかけが
映画が終わったとき観客に残される。
テーマをそこまで普遍化していく手立てとして、
検事室の取り調べに最大限のリアリティを担保する、
それが優れて「ジャーナリスティック」なのである。

病苦に苛まれながら誠実に生き、
死んでいく男を演じる
役所広司の圧倒的な存在感がいまも生々しく蘇ってくる。
この人、本当に見事な役者だなあ…。
もう一度観たい映画である。
しかし、軽い気持では観に行けない映画でもある。

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