妻がカヌーで川下りをしてみたいという。
ほとんどアウトドア志向ゼロの
彼女がどういう風の吹きまわしだろうか?
去年の夏に釧路に帰ったときにもそういうので、
川下りのガイドを行なっている
「塘路ネイチャーセンター」に電話をしたが、
既に予約が満杯で断念した経緯がある。
だから、妻にとっては二年越しの念願というわけだ。
ぼくには(結婚前だが)カヌーに夢中だった時期がある。
釧路川はもちろん、
天塩川や十勝川など北海道ならではの大河を
河原にテントを張りながら下っていた。
車の運転ができないぼくは
専らファルトボート(組み立て式のカヌー)で、
カヌーを担いで(キャンプ道具一式は腕に抱えて)
電車やバスを乗り継いで川に向かった。
もともと協調性に欠ける性格ゆえか、
いつも一艇だけのソロ・ツーリングで、
自然と対話しながら過ごす孤独な時間を愛していた。
それが2000年の夏に北海道から東京に転勤して、
カヌーとはすっかり縁遠くなってしまった。
川下りに飽いたというわけではない。
絶好の川がすぐそこにある北海道とは違って、
東京にいたのでは出かけていくだけでも大変である。
スキューバ・ダイビングとカヌー、
二つのアウトドア・スポーツを両立するには、
暇も小遣いも足りなかったということだ。
そんなわけで、
愛艇「パジャンカ」(メーカー名)は、
愛艇「パジャンカ」(メーカー名)は、
転勤以降一度も組み立てられることがないまま、
いまは釧路の家の倉庫で眠っている。
いまは釧路の家の倉庫で眠っている。
十数年ぶりの川下りが実現することになった。
つまり、ぼくにとって「今世紀初」の川下りである。
妻を乗せるので、
一人乗りのファルトボートというわけにもいかず、
去年と同じ「塘路ネイチャーセンター」に依頼して、
カナディアン・カヌーを一艘出してもらう。
舟をコントロールする艫の漕ぎ手はガイドさんで、
ぼくは舳先の漕ぎ手を務める。
カヌーが初めての妻は真ん中に乗り、
ときどきパドルを水につけて掻き回すくらいで、
事実上の「お客さん」を決め込む。
ぼくはカナディアンの経験は少ないが、
漕ぐうちに少しずつ体が川を思い出してくる。
茅沼からスタートして
コッタロ川との合流点に近いスガワラに上がる、
時間にして1時間半ほどの短いツーリングである。
天気は高曇りで、陽光がぎらぎらしないところは却ってカヌー日和。
気温はおそらく20℃を下回っているだろう、
川面を渡ってくる風は涼やかである。
川辺は鬱蒼とした緑で、
人間の生活の臭いが殆どしないのが釧路川の特徴だ。
水音、鳥の声、風にそよぐ木々のざわめき…
音がしないわけではない。
自然はむしろ様々な音に満ちているのに、
舟を滑らせている気分は「静寂」というほかない。
ところどころ川から倒木が突き出ていて、
風景に独特の陰鬱な詩情を添える。
自然の懐の深さに吸い込まれそうな気分になる。
いつもはおしゃべりな妻が無口になって、
久しぶりに川に出たぼくは、はしゃいで多弁になる。
怖がるのではないかと心配していた妻だが、
終始リラックスした様子で、
彼女なりに初めての川を愉しんでいたようだ。
来年もまた来たい、
そのときにはもっと長いコースがいいという。
はいはい、奥様、
亭主にとってカヌーは「昔取った杵柄」、
お許しが出ればいつでも現役復帰の準備があります。
北海道の川やったら、いつでも御案内しまっせ。
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