2011年11月21日月曜日

mission impossible

きょう南相馬市で市の除染計画が発表された。
放射線量の高い山あいの地域から除染を始めて、
2年ですべての民家・事業所の放射線量を半減させる計画である。
(警戒区域・計画的避難区域は国が除染することになっている。)
森の伐採までは当面考えず、
線量の高い地域に関しては表土を剥ぐことも検討するという。
生活環境優先で、
農地の除染はどうしても後まわしになるので、
来年も主食用のコメの栽培は諦めてほしいという内容だった。

地元の人たちが待ち望んできた
除染への道筋がこれで明らかになったということである。
しかし、この除染計画には大きな、
もしかすると致命的かもしれない問題がある。

それは除染しなければならない範囲の広さに対して、
除染に費やすことができる
時間と労力があまりにも少ないという現実である。
除染対象は市内3万戸の民家と1万6千棟の事業所(等)。
それを僅か2年でやろうという計画には無理があるのではないか。
市内各行政区の区長に対する説明会の席上、
市の幹部は「一日あたり100軒の除染をする」と明言した。
そんなことが本当に可能なのだろうか?

ちょうど昨日のことである。
ぼくたちは市内太田地区である家庭の除染を撮影していた。
除染をしていたのは
中学3年生から小学1年生まで3人の子どもを抱えた家庭。
3月15日以来避難している福島市から
(子どもたちの希望もあって)なんとか南相馬に帰ってきたい、
そのために少しでも線量を下げたいと自力での除染に踏み切った。
除染経験のある友人が協力を買って出て、
家の主夫婦にボランティアを加えた5人がかりの除染だった。
















太田地区は南相馬で特に放射線量の高い地域というわけではない。
この家の場合、屋外の空間線量が0.8~0.9μSv/h、
避難した時そのままの室内は0.5~0.6μSv/hというところか。
除染は高圧洗浄機で屋根、壁、バルコニー、
庭や駐車場を徹底的に洗うことを中心に行い、
庭木を伐り、高い線量を発していた芝生の一部を剥ぎ取った。
危険があるので2階の屋根は洗わず、
費用や手間の問題もあって、
本格的な表土の除去までは行なっていない。
除染前にまず線量を測り、作業後にまた測って、
線量の落ちていないところをもう一度洗うというやり方である。
5人で2日間かけて除染した結果、
屋外の線量で0.6μSv、室内で0.4μSv台にまで落ちた。
(掃除を徹底すればもう少し落ちるだろうということだった。)
神戸大学の山内友也教授が
福島市渡利地区で行った調査によると
高圧洗浄機では線量を7割まで落とすのが限界ということなので、
この結果はまず順当なところだろう。

さて、新興住宅地にあるごく普通の大きさのお宅、
それもとりたてて高線量というわけでもない家の除染で、
5人×2日の労働力時間がかかったのである。
(しかも、結果は「線量半減」にまで至っていない。)
充分とはいえない除染であっても、
少なくとも作業員5人が必要だということを前提に考えてみる。
プロが除染することで工程を1日に短縮できると仮定しよう。
南相馬市内で1日100軒の除染を実現するためには、
5×100で500人が常に除染に従事していることが必要になる。
それほど多数の作業員を果たして確保できるのだろうか?
この時期、除染作業を行うのは南相馬市だけではない。
福島県全体では何人の除染作業員が必要な計算になるのか?
そして、除染を必要としているのは福島県だけではない…。

現実的に確保可能な作業員数を100人としてみよう。
100人が5人ずつチームを組むとして20チーム、
1日8時間労働で100軒の除染をするとして
一軒の除染にかけられる時間は…およそ1時間30分である。
一度でも除染作業を見たことがある者なら、
これが如何に非現実的な想定であるかが判るだろう。
アリバイ的に高圧洗浄機で洗っておしまいにするならともかく、
実際に線量を落とそうとすればそんな時間ではどだい無理である。

 ※ひとつ付け加えておけば、
  ぼくがいままで取材してきた除染のほとんどは
  (測定担当者を含め)20人程度の人が関わっていた。

















南相馬市では高線量の家から除染を始めるという。
写真は高倉(たかのくら)地区だが、
山に囲まれており、街場と違って一軒一軒の家が広い。
いまも地上1mで2.5μSv前後の空間線量を計測している。
こうしたところの放射線量を半減させるためには、
実際20人がかかっても1日では難しいだろう。
いや、そもそも、
民家の背後にある森や
屋敷林(「いぐね」と呼ぶらしい)を放置して、
果たして実効性ある除染ができるかどうか自体が疑問である。
(この問題については11月4日の「先が見えない」にも書いた。)

市が「2年以内の除染」にこだわったのには理由があると思う。
それ以上時間をかけてしまうと、
現在も避難を続けている2万人以上の人たちは避難先に定着し、
南相馬に帰って来なくなってしまうことを危惧しているのである。
そして、そのヨミはおそらく正しい。
その意味で今回の除染計画には、
地元の切羽詰まった願望が込められているといってもいい。
ぼくは、この計画通り、除染が順調に進むことを願っている。
しかし、これはmission impossibleではないか。
残念ながら、計画の破綻は早晩明らかになる予感がしてならない。

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