仁多米

この秋の新米が届いたので、日曜の昼食に家族で食べた。
我が家が食べているのは「仁多米」である。
島根県奥出雲町(仁多町と横田町が合併してできた)の米で、
寒暖の差の激しい山あいの地で作られ、味のよさで知られている。
東京での知名度はほとんどゼロに近いと思うが、
西日本では最も市場の評価が高い銘柄米だ。
ぼくは父方の祖母が仁多の出で、母は横田の生まれ。
つまり、仁多米は“父祖の地”の米で、
そういうこともあって、毎年買って食べている。

二週間ほど前になると思うが、
「えきねっと」から送られてきたPRメールに
「西日本の魚沼」との触れ込みで
仁多米の通信販売を行うことが記されていた。
えきねっと、
つまりJR東日本が
西日本の米の販売に乗り出すのには驚いたが、
背景はすぐに察しがついた。
福島原発事故に端を発する放射能への恐怖である。

消費者のあいだに
魚沼産を始めとする
東日本の米を忌避する動きがあることは耳にしていた。
現実に魚沼でも土壌からセシウムが検出されているので、
一口に「風評被害」と言い切れるかどうか。
西日本の米を食べている我が家は安心といえば安心だが、
大変複雑な気持ちである。

我が家では、
奥出雲町の専業農家、
佐藤順一さんが作っている米を玄米で買い、
自宅で精米して食べている。
十年ほど前に取材させていただいたのがきっかけだ。
佐藤さんは「紙マルチ」という方法で、
農薬や化学肥料を全く使わない米作りを行っている。
簡単にいえば田んぼの表面に紙を張ることで
雑草が生えてくるのを妨げようという栽培法である。
紙はやがて分解され自然に戻るので、環境に負荷を与えない。
佐藤さんは独特の農業哲学の持ち主で、
あえて反収を抑える、つまり量を収穫しないことで、
米の一粒一粒により多くのエネルギーを込めたいという。
きょう食べた今年の新米も、
味に一本芯が通っていて、がつんとした食べ応えがあった。

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