矛盾があまりに深すぎる…

福島原発事故の被災地を取材していると、
呆れるほど多くの矛盾に突き当たって立ち竦む思いがする。

事故の原因や責任についての言及はひとまず措く。
問題にしたいのは事後の処理、
最も緊急かつ重要なはずの被災者救済が後手にまわり続けたことである。
まず福島第一原発からの距離によって
同心円状に避難区域の線引きをしたのが間違いだった。
情報がない段階での初動としてはやむを得なかったとしよう。
しかし、放射性物質が同心円状に拡散しないことは、
SPEEDIなどのデータによってすぐに判断できたはずである。
事実、放射性物質は原発から北西方向に吹く風に乗って汚染地域を拡げた。
にも拘らず、
現実と乖離した「同心円」の線引きがその後も維持されてきたのである。

ぼくが取材している南相馬市では、
現在、最も放射線量が高く出ているのは市内北西部、
飯舘村との境界に近い地蔵木地区である。
ところが、
ここは原発から30kmの圏外だというので避難区域には指定されなかった。
住民は自費で避難するか、
強い放射線に曝されながら暮らし続けるかの選択を余儀なくされた。
東電の補償仮渡し金の対象からも漏れている。
放射性物質が北西に拡散したことが明らかになって
「計画的避難区域」が設けられると、
大半が30km圏外の飯舘村は全村が指定され、全住民が避難することになった。
しかし、南相馬市では、
面積こそ広大だが人の住まない国有林ばかりが指定され、
避難することになったのはわずか6戸にしか過ぎなかった。
地蔵木を含む不動集落(震災後も残っていた8戸)は、
裏山が計画的避難区域になったが、民家はすべて指定から外されたのである。

計画的避難区域以外にも、
線量の高い、いわゆるホットスポットが点在することが明らかになって、
今度は「特定避難勧奨地点」が世帯単位で指定されることになった。
ところが、たった一度、それも1戸2地点の線量調査だけで決めたために、
たまさか数字が低かった(?)
地蔵木の住民はまたしても指定からこぼれ落ちることになる。
南相馬市役所が独自に毎日行なっている調査では、
市内で最も高い放射線値を計測し続けているにも拘らずである。
地蔵木で特定避難勧奨地点に指定されたのは、
震災直後に引っ越してしまった空き家がただ1軒だけだった(写真)。

これだけでも充分酷い話だと思うのだが、
先週、国が除染の基本方針を明らかにしたことで矛盾はさらに深まる。
原発から半径20km圏内の「警戒区域」や
計画的避難区域については国が直接除染を行なうのに対し、
20km圏の外側については地元自治体に除染を“丸投げ”したからだ。
(特定避難勧奨地点について基本方針は言及していない。)
結果、全村が計画的避難区域になった飯舘村は
国が2000億円を投じて徹底的な除染を行なうのに対し、
南相馬市の除染予算は現在のところ総額10億円に過ぎない。
この金額では学校や公共施設を除染するだけで手いっぱいなのである。
20km圏内にあって警戒区域に指定されている南相馬市小高区では、
海岸近くの集落の線量は地蔵木などに比べて遥かに低い。
しかし、国の手で優先的に除染が実施されることになるのだろう。

除染をめぐる矛盾はさらに拡大する。
もし特定避難勧奨地点の除染を地元自治体に委ねることになれば、
北西部の山あいに点在するホットスポットは、
市の財源不足の結果、汚染されたまま残されてしまう可能性が強い。
一方、国が行なえば行なったで、
8戸が残った不動集落のうち指定を受けた3戸だけが除染され、
地蔵木などの5戸は(もし追加指定されなければ)放置される結果になる。
そうなればコミュニティが分断されてしまう。
そして、こうした分断された集落は、
不動のみならず、市内北西部一帯に続出することになる。

おとといの日曜日、
市内北西部に住む子どもたちが通う石神第一小学校の除染が始まった。
市が10億円をかけて行なう除染の一環で1ヶ月以内に完了する予定だが、
学校の除染が終わったからといって、
いまはバスで他地区の体育館に運ばれて勉強している子どもたちが、
この小学校に帰ってくる予定はない。
学校がきれいになっても、
周辺の環境が高濃度の放射性物質によって汚染されているからだ。
奈落の底を覗き込むような矛盾の深さと暗さに立ち竦む思いがする。

コメント

  1. 訂正。
    飯舘村の除染に国が2000億円を投じるというのは地元紙に出ていた記事だが、
    その後の取材で事実ではないことがわかった。
    国による除染予算の総額が2200億円で、
    それがすべて飯舘村だけのために使われるわけではない。
    また、国は20km圏外についても地元に“丸投げ”したわけではなく、
    原則として「国の責任」で除染を行なうとしている。
    ただし、現実にいくらの予算を投じるかについてはいまのところ不透明である。

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