2010年12月25日土曜日

番組「大阪“非常事態”宣言」は明日夜10時の放送です。

ETV特集「大阪“非常事態”宣言 〜生活保護・受給者激増の波紋〜」が完成した。
放送は明日夜10時の教育テレビである。

今回の番組は、編集ができあがってから、
あるいはナレーションを入れ終わってから、いつもの何倍もの手間を要した。
出演者の顔を消したり、声を変えるためである。
生活保護を受給していることを他人に知られたくないと思っている人は多い。
(というより、ほとんどの人がそうだろう。)
だから、プライバシーの秘匿にはいつもの何倍もの気を遣った。
気を遣えば、当然ながら時間も使うことになる。
きょうも一度番組を完成させてから、
もっときちんと身許が特定されないようにすべきだという
プロデューサーの助言に従って作業をやり直すことになった。

25年ほど前、ぼくは「おはようジャーナル」という朝の情報番組を担当していた。
豊田商事などの悪徳商法を追及する仕事をメインとしていたため、
被害者や内部告発者など出演者のほとんどについて顔を隠し、声を変えざるを得なかった。
だから顔を隠してインタビューを撮る方法についてはかなり熟達したと自負しているし、
近ごろの民放のワイドショーなどで
安易に覆面インタビューを撮っていたりするのを見ると苦々しくも思う。
そんなぼくにして、
今回の番組ほど徹頭徹尾、登場人物の顔を隠さざるを得なかったのは初めてかもしれない。
生活保護の受給者のみならず、
調査に赴く市役所職員の顔も(当人の安全のため)隠さなければならなかったから大変だった。

しかし、仕上がった番組を見て、いささかがっくりするハメになった。
顔を隠し、声を変えるということは、“行間”の情報を犠牲にすることに他ならないからである。
ニュース的な意味でいう「情報」であれば、顔を隠そうが声を変えようが充分に伝わる。
だが、ぼくが番組作りで一番大切にしている
微妙な表情やニュアンス、その場の空気感とでもいうべきものは、
顔が見えなかったり声が聞こえにくくなれば大半が欠落してしまう。
だから、無修整で試写をしたときのインパクトと完成版では何かが決定的に違っていた。
そのあたりは、ポルノ映画と一脈通じるのかもしれない(笑)。
封切り時にみた大島渚の「愛のコリーダ」(映倫による徹底修正版)と
数年前のディレクターズ・カット版とでは感動がまるで違っていたことを思い出す。
無修正のハードコア版を見ることができれば、
興奮が…ではなく、映画としての感銘がさらに違っているのだろうと思う。
映像とは、そうしたものなのである。

今回の番組は、ぼくが手がけた番組には珍しく「情報番組的」になった。
それはそれで日本社会が抱える矛盾を抉って見応えがあるだろうと自負してはいるが、
どこかに不完全燃焼感がつきまとうのは否めない。
…でも、見てください。

6 件のコメント:

  1. 番組見ました、大変な作業おつかれさまでした。
    考えさせられる内容ですね。
    働くより生活保護受けたほうが収入が多いなんて・・。

    平松さん久しぶりでした、MBSナウのキャスターやってたのは何十年前だったのだろう・・?
    山陰に住んでいるとあんまり大阪の情報って入ってこないですね。

    ひだか

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  2. >ひだかさん

    いつもありがとうございます。
    平松大阪市長は
    いつも「日本社会の底割れ」という言葉を使われますが、
    ぼくも同じ危機感を感じています。
    働いても生活保護水準以下の収入…ということは、
    言い換えれば、
    懸命に働いても
    憲法25条でいうところの
    「健康的で文化的な最低限の生活」ができないということで
    これはとんでもない事態だと思います。
    ぼくらの社会の根底が崩れ始めているのかもしれません。

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  3. 番組拝見させていただきました。

    いろんな立場の“実例”が豊富に示されていました。たくさん取材されたうちの、ごく一部なのでしょうが、やはり“映像”の力は大きいなぁと改めて感じました。インターネット、マンガ、書籍など他のメディアを通じても生活保護の“問題例”を見聞きしてきましたが、実際に役所にずらずら列をなす人々の映像を目の当たりにすると、現在の生活保護行政の在り方を早急に見直す必要があると強く感じました。

    もちろん生存権を守るため活動されている方の意見や、受給者の方々の実情にも、しっかり耳を傾けながらですが、今後生活保護を申請する人々がさらに増え続けることが容易に予測されている今、打てる手はどんどん打って行かなければならないはずです。聞くところによると、申請者の風貌や態度によって担当者の対応が変わる等(申請を容易に受理する、なるべく受理しないようのらくら交わす等)の問題点もままあるそうです。生活保護制度を大幅に変えないまでも、そういったところなどは具体的な対応策を練って処理することで改善できるのではないかと思いました。(Toriさんがツイッターでぼやかれていた、ぼかし等による“情報制限”が確かに残念でしたが、ついでがあれば自分の目で確かめることにします)

    あと、温和な口調でしたが、「実例を持って対応していく」旨をおっしゃっていた平松市長の毅然とした態度が印象的でした。生活保護費の問題以外にも様々な問題が山積する中、今年起きた生活保護集団申請問題にいち早く積極的に取り組まれている実績がありますので、行政レベルでの改革が具体的に進むことを期待しています。

    今回の視聴率はめでたく「一桁越え」ということですので、“非常事態”の緊急ベルが聞こえた視聴者も多かったのではないでしょうか。番組終了後も“拡散”は続くでしょうしね。

    個人的には生活保護制度を受ける方には、多少の不自由は我慢していただきたいと思っています。例えば現金支給ではなく、現物支給を増やすとか。官僚の天下り先機関が増えるだけのような危惧もありますが、やはり基本的には“自立”をサポートする制度であってほしいものです(理想論ですけど)。

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  4. >エイコンハウスさん

    いつも本当にありがとうございます。
    現状はもはや「弱者保護」の建前だけでは
    どうしようもないところまできているのではないかと思います。
    「税金を払う側」(支える側)と
    「税金で飯を食う側」(弱者)のバランスが崩れ始めている、
    それも不正受給とかを一切なくせたと仮定しても
    やっぱり崩れてきているというのが問題の本質だと認識しています。
    ぼくたちの社会がいよいよヤバイと感じられた取材でした。
    …今日はこれから大阪です。
    関係者の生のリアクションに触れてきます。

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  5. ようやくビデオを拝見しました。

    社会福祉学部の卒業生です。大阪市役所にも大学の先輩後輩が勤務していると思いますが、現場は大変なことになっているのですね。生存権の最後の砦=生活保護制度を適正に運用しなければならないはずの立場にいても、一公務員として、できることには限界がありますよね。

    病院や不動産会社まで生活保護をビジネスチャンスと捉えて節操ない営業活動をしているなら、行政が毅然と介入して欲しいものです。

    ハローワークで就職活動をしている方々の姿が痛々しかったです。なぜ、こんなにも就職することが困難なのか、怒りがこみ上げてきました。こんな社会に誰がしたのでしょう?選挙権を大切にしない国民でしょうか?

    バラマキ行政と国債の乱発。このままで、国家の破産を回避して経済を立て直すことができるのか、先行きが暗いですね。

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  6. >ゆきだるまさん

    やはり矛盾を一番痛切に感じているのはケースワーカーなど現場の職員で、
    財政難に直面する市の幹部たち以上に
    現場の方々の受給者を見る目が厳しかったのが印象的でした。
    そして、ご指摘の通り、再就職の難しさ…!
    何社受けても落とされ続けるなかで気力を失い、
    保護に安住し始める人が出てくるのも当然だと思いました。
    「働けない」ということは、
    人間の基本的な尊厳がないがしろにされていることでもあるのですね。
    前のレスにも書いたように、
    税金を納める人と税金で食べている人のバランスが壊れ始めているので、
    日本社会の先行きは本当に暗いと思いますよ。

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