筑紫路に新緑を愛でる。



朝のANAで福岡に飛ぶ。
息子が大学に合格したのを祝って、
老父母、弟夫婦と一緒に
太宰府天満宮を御礼参りに訪れるのである。
ぼくは神信心は全くしない性質(たち)だが、
思えば、去年の春、
浪人が決まった息子のために
八十歳になる両親が
広島からわざわざ太宰府に参ってくれた。
ありがたいことだと素直に思う。
そのうえ、
今回は温泉宿で祝宴を設けてくれるという。
親不孝を繰り返してきた長男坊としては、
いささか心苦しいが、
厚意は素直に受けることにした。



太宰府は躑躅の盛りで、
ゴールデンウィークとあって大変な人出である。
しかし、ぼくの心に残ったのは、
樹齢千年とも千五百年ともいう楠の巨木であった。
お参りを終えて筑紫路を南に走り、
夜は筑後市の船小屋温泉に宿泊したのだが、
宿から川を隔てた対岸にも楠が生い茂っていて、
その新緑がまるで心を洗うように美しかった。
この季節にしか出会えない、
淡く初々しく、そして鮮烈な緑に見惚れる。
河畔には
樹齢数百年クラスの楠がたくさんある。
この土地の人々は
楠に何か特別な思い入れでもあるのだろうか。


船小屋温泉は炭酸の含有量が日本一だそうだが、
宿の内湯の印象は平凡なもの。
なんでも熱すれば炭酸は失われてしまうらしい。
素晴らしかったのは
宿で鍵を借りて入りにいった
バラック造りの「すずめ湯」で、
内湯とは似ても似つかない赤錆色の湯は、
炭酸を飛ばさないため湯温37℃とぬるめだが、
ゆっくり入っていると内側からほとほと温まった。

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