いまさらながら…ジェフリー・ディーヴァーは面白い。

旭川からの帰りの飛行機の中でジェフリー・ディーヴァーの「石の猿」(文春文庫)を読み了えた。
最近、ぼくはディーヴァー、とりわけ「リンカーン・ライム」のシリーズにハマっている。
出張に文庫本を携えて行き、
「ボーン・コレクター」「魔術師」「コフィン・ダンサー」、そして「石の猿」と読み進んできた。
(*執筆は「ボーン・コレクター」「コフィン…」「石の猿」「魔術師」の順。)

主人公のライムは科学捜査(=鑑識)のプロだが、
捜査中の事故で全身麻痺の身となり車椅子から離れることができない。
自室にいながら現場に残された微小な物証を鑑定し、類い稀な推理力をもって犯罪の意外な真相に迫る。
ライムに代わって現場に出るのは、スピード狂で射撃の名手でもある赤毛の婦人警官アメリア・サックス。
…このシリーズの面白さは、
本格推理小説の現代的な変種(なにせライムは椅子に坐ったままで謎解きをする)であることに加えて、
「コフィン…」の爆弾が装着された飛行機を操縦する場面、
「石の猿」でサックスが沈没した密航船に潜る件など、サスペンス小説としても極上であること、
そして何より、
次から次へと「意外な真相」が明らかになっていき、二転三転する捻りに捻ったプロットである。
(時にあまりに捻りすぎて着地でよろめいたりするのだが…)
ディーヴァーはストーリー・テリングの面白さにすべてを賭けているようなところがあって、
どうやったら読者を騙してあっと言わせるかに作家としてのあらゆる技巧を弄する。
映像メディアでは表現不可能な、活字の世界だからこそ成立するトリックも少なくない。
「コフィン・ダンサー」の、
公園で発見された氏名不詳の死体(身許を隠すために両手と顎が切断されている)の正体など、
ショッキング過ぎて、ほとんど“悶絶寸前”と言いたいほどの意外さだ。
こちらとしては、作者に騙されないよう裏の裏を読んで、
「こいつは如何にも怪しそうな伏線が張ってあるから絶対シロだ」とか穿った読み方をするのだが、
(オーソドックスな本格推理小説とは違って)すべての手がかりが明示されているわけではないので、
結果としては必ず騙されることになる。
読者をまんまと騙して、かつ喜ばせるテクニックが、文章の詐欺師・ディーヴァーの身上である。

「カメレオン」と異名をとるFBIの潜入捜査官フレッド・デルレイや、
着ているものがいつもしわくちゃの殺人課刑事ロン・セリットーなど、
ライムとサックスをとりまくレギュラーの登場人物もキャラクターが立っていて、
こうした面々が醸し出す雰囲気がシリーズの安定した面白さを支えている。
この味はどこかで記憶があると思ったら、池波正太郎の「鬼平犯科帳」とちょっと似ているのだった。

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