すすきの「○寿司」

何年ぶりだろうか、すすきのにある「○(まる)寿司」に顔を出した。
北海道にいた頃、ぼくが一番好きで通っていた寿司屋である。
ナマの刺身を酢めしに載せただけの「生鮨」が全盛の北海道にあって、
この店は、酢で〆たり、炙ったり、
昔ながらの、いわゆる「仕事をした」寿司に力を入れている稀有な店だ。

北海道にもこんな寿司屋があるのかと意外に思って何度か通っていたら、
あるとき、主(川崎さん…ぼくと同い年だから当年とって53歳…)の話を聞いて吃驚仰天した。
もともと川崎さんは北海道では超有名な某高級寿司店の弟子なのだが、
東京で下北沢の「小笹寿司」の寿司を食べて、
「これが同じ寿司なのか」とカルチャー・ショックを受け、以来、仕事のやり方を全く変えたのだという。
実はその「小笹寿司」こそがぼくの25年来の行きつけの店なので、当然ながら意気投合をした。
それ以来、北海道で寿司を喰うならこの店の他にはないと思ってきた。

きょうは本当に何年ぶりなのだが、
川崎さんはぼくの好みをよく憶えてくれていて、
まず「かけつけ一貫」で(笑)シンコの三枚づけが出た。
以下、酒の肴と寿司とを適宜織り交ぜながらのフルコース、
関西の押し寿司のように昆布のおぼろの部分を一緒に握った鯖、
「小笹」と同じようにアサツキを薬味にした鯵、柚子を効かせた蒸し鮑、
軽く炙って海苔で巻いた帆立、干した数の子、自家製の塩雲丹、鮪のづけ…すべて抜群に旨い。
もともと美味しい店だったのだが、様々なネタの工夫が板について、確実にワンランク上の店になった。
すっかり堪能して、同い年の気安さから、「腕を上げたね」と生意気を云った。
川崎さんは柄にもなく照れたのか、「それほどでもないっしょ」と云うから、
「いや、昔に比べて二翻(リャンハン)は美味しくなった」と云ったら、
「二翻もおいしくなったら満貫でしょ」という。
いや、これは疑いなく「満貫の味」だとぼくは思う(ハネているかもしれない)。

川崎さんの息子さんは、高校を出てすぐ銀座の「小笹寿司」に修業に出た。
それがもう6年になって、来年か再来年には札幌に戻ってくる予定だという。
息子さんが戻ってくるのに備えて、
去年、店を改装してカウンターを(二人でつけ場に立てるように)広くしたと云う川崎さんは、
すっかり親馬鹿の顔をしていて幸せそうだ。
川崎さん自身が現状に安住せず「より上」を目指して切磋琢磨しているところに、
定評ある名店で修業を積んだ息子さんが帰ってきたら、北海道では無敵の寿司屋になるに違いない。
なんだか自分のことのように嬉しくて(もちろん寿司もおいしくて)、とても満ち足りた気分で店を出た。



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