座敷わらしの宿

青森県との県境に近い金田一温泉に泊まった。
「緑風荘」という宿である。

金田一温泉に宿を取ったのは
ロケ先の県立二戸病院に近いからで、
「緑風荘」を予約したのは、
なんとなくよさそうだったから…
という漠然とした理由に過ぎない。
ところが、
この緑風荘、
実は「座敷童(わらし)の出る宿」として
全国的に有名な旅館だった。
旅館を始めたのは戦後だというが、
母屋が建てられたのは元禄二年とのこと。
気が遠くなるような昔から、
この家の人々は
代々「座敷わらし」と共存してきたらしい。

夕食が終わると、女将らしい上品な老婦人が「座敷わらしのお部屋をご覧になりますか」と訊いてきた。
ま、話のタネだと思うから、深い考えもなく付いていくと、
母屋の一角にある「槐(えんじゅ)の間」という部屋に通された。
驚いたことには、この「槐の間」は空き部屋ではなく、今夜も泊まっている人がいた。
宿泊客に断わって、ちょっとだけ部屋を見せてもらうというかたちなのである。
さらに驚いたことには、この部屋の宿泊予約は何年も先まで埋まっているらしい。
泊まっていたのは京都から来たという僧形の男性だが、
ちょうど今日が誕生日で(何回目かは訊き損なった…)、5年前に予約したのだという。
この部屋に泊まって座敷わらしを見ると必ずいいことがあるという言い伝えがあり、
部屋の床の間にずらり並んでいる人形や玩具は、
幸運に恵まれた宿泊客から送られてきた座敷わらしへの御礼の品々である。

「座敷わらし」は六歳の男の子だという。
この部屋で写真を撮ると
白いぼやっとした円形が写り、
それが座敷わらしなのだとも聞かされた。
エクトプラズムみたいなものかな?
試しに撮ってみると…
なるほど、写っていましたよ。
何枚か撮らせてもらったなかに
画面中央がぼんやり白くなっているのがあった。
枕元にも白い「何か」が写っている。

常識的に考えれば、
古い日本家屋に
歴史とともに積み重なった埃が舞って
それがストロボに反応して
ハレーションを起こしているのだろうが、
そう考えたのでは夢がない。
ここはやっぱり「亀麿くん」(座敷わらしの名前)が誕生日を祝って出てきたのだと考えたい。

思いもかけず、
不思議な宿に泊まった。
部屋に飾られた玩具や人形に囲まれて、
男性はどんな夢を見たのだろうか?

ぼくたちは
二戸病院の夜間救急を撮影するために
夕食後にまた出かけたのだが、
午前1時まで粘って救急車が一台きりと、
夜勤の看護婦さんが気味悪がるほど
平穏な夜になった。
座敷わらしが現れたら
三脚くらい担がせて仕事を手伝わせようかと、
そんな話をしていたのを
聞かれてしまったのかもしれない。

コメント

  1. 心太@釧路2009年4月25日 13:42

    良い子ではないので、きてしまいました。
    連続テレビ小説「どんど晴れ」以来の目撃でした。

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  2. いや~こんなお宿さんもあるんですね!決して意図的な営業戦略ではないとは思いますが、かなり笑わせていただきました。元禄二年という歴史の重みがまた”座敷わらし”説をよりリアルに感じさせてくれますね。同じ宿屋としては羨ましい限りの繁盛ぶりです。

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  3. >心太@釧路さん

    ウエちゃんがアホなこと書くもんやから(笑)。
    ブログの性格(読者層?)が変わったらどないしょ?…と悩んでます。

    >エイコンハウスさん

    たぶん知ってたら泊まるのを避けたと思うんですが、ね。
    おかげさんで面白い経験をさせてもらいました。
    亀麿くんを京都に誘致して、
    女性客のペットにしたら人気が出るかも…(爆)。

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