墓探しの記

日曜日は伊豆の網代温泉で一泊。
この春から妻の休日が日・月の連休型になったので、
近場の小旅行でもしながら
できるだけ二人で過ごす時間を増やそうと考えている。

(網代温泉。熱海から駅三つ離れただけで一気に静かになる)
(泊まったのは平鶴旅館。加水加温なしの100%の源泉だ)

月曜は帰りに鎌倉に足を伸ばして、
鎌倉から三浦半島にかけての霊園見学をした。

故郷を離れ転勤を繰り返してきた我が家には入るべき墓所がなく、
将来、夫婦二人で入る墓を探していた。
北海道の釧路市に家があるので、
息子の代になって一年か二年に一度、
夏休みを北海道で過ごすときに
ついでに墓参りをしてくれればいいやというつもりで、
当初は釧路に墓を買うつもりでいた。
ところが墓地の購入予定費用を
ぼくが飲んでしまってぐずぐずしているうちに、
妻の考えが変わってきた。
休日などを利用してもっと気軽にお参りできるよう、
東京の近くにお墓が欲しいと言い出したのである。
東京近郊のお墓はやたらに高価というイメージがあって、
当初は都営墓地を考えたが、
現に遺骨を抱えていなければ応募できず、抽選倍率も非常に高い。
妻としては、ぼくが遺骨になるまで待っていられない気分らしい。

周知のように、男女の平均寿命は女性の方が十年以上も長い。
そのうえ我が家はひとまわりほど歳が違う。
さらにいうなら、ぼくはがん患者である。
そう考えるとぼくの方がお先に失礼する可能性が圧倒的に高い。
お墓に関して言えば、
「ぼく入る人、わたし参る人」という関係である。
ここは「参る人」の意向を尊重するしかない。
とはいえ、墓参りだけで一日潰すのも辛気臭いだろうから、
観光地に近い場所で
行楽を兼ねて訪ねることができるところがいいんじゃないか、
現在は中国駐在中の息子にとっても将来的にその方がいいだろう、
というのが「入る人」側の見解である。
ちょうど最近、夫婦で鎌倉(円覚寺など)を訪ねたばかりで、
来週も紫陽花見物の予定がある。
妻が霊園探しの問い合わせをした石屋さんが
偶然、鎌倉に本社がある会社だったこともあって、
これもひとつの御縁と思い、周辺の民間霊園の案内をお願いした。

もっとも、ぼくは信仰心をまるで欠いた人間であり、
読経だの戒名だのは(十字架も)まっぴら御免である。
将来日本で暮すかどうかもはっきりしない息子のことを考えても、
お寺さんと檀家関係を結ぶのは厄介の種を蒔くようなものだ。
無宗教で、アメリカ映画に出てくる公園墓地のような、
できるだけシンプルなデザインの墓がいい。
いざ選ぶ段になると「入る人」もけっこう自己主張する。
幸いそこに関しては妻も共通の思いなので、話が早い。
鎌倉周辺の民間墓苑など高価で手が出ないだろうと思っていたら、
案外そうでもないこともわかった。

 (鎌倉霊園。もともと西武・堤家の墓所でヘリポートがあったらしい)
 (シンプルな芝生墓地が何区画か空いていた)
(南葉山霊園はソテツに花々を組み合わせた植栽と展望が素晴らしい)
(ベイサイド三浦浄苑。快晴の日には真正面に富士が見えるという)

時間をかけていくつかの霊園を案内していただいた。
それぞれに個性があり、違う魅力もある。
最近は個性的なデザインの墓も増えているようで、
ペットの合葬が可能な霊園など、
よそ様のものといいながら、結構見ていて飽きないものがある。
墓碑に「気をつけてお帰りください」と
お参りの人たちを気づかう言葉を刻んだ墓もあり、
なんとなく微笑んでしまう。

まだ決めたわけではないが、
鎌倉を起点に行ける霊園がいいのではないかというのが
夫婦で出した結論である。
湘南新宿ラインを使えば、新宿から鎌倉まで1時間の近さであり、
駅の周辺にはおいしそうなカフェや食堂、
洒落た雑貨を売る店がひしめいている。
行楽・観光を兼ねて、という意味ではこれ以上の場所はない。
買物好きの妻がここに引っかかって、
いつまでたっても墓参りに現れず、
ぼくはいつものように
待ちぼうけを食わされてしまう気がしなくもないが…。





コメント