最近は毎週のように鎌倉に行っている。先週木曜日には明月院でいまが盛りの紫陽花を撮影した。
ぼくはこの梅雨どきに咲く〝陰の花〟が好きだが、この日はちょっとばかり天気が良過ぎた。紫陽花にはぎらぎらした陽光は似あわない。
昨日は妻が一人で鎌倉に行って、墓地の購入を決めてきた。2m×2mの芝生墓地で永代使用料(つまり土地代)は40万円ほど。驚くなかれ、この価格は釧路の墓地を買うより安いのである。帰りに小坪漁港に寄って釜揚げしらすを買ってきたので、夕食は美味しいしらす丼にありついた。
墓は使う石もほぼ決めてあり、あとは墓碑にどんな文字を刻むかだ。まず間違いなく先に入ることになるだろうぼくのこだわりは、「○○家」という表記は絶対に避けたいということ。家の墓ではなく、あくまでぼくと妻という二人の個人の墓だからだ。遠い将来、息子の家族が一緒に入りたいというならそれは差し支えないが、息子は現在、仕事で海外に駐在しており、将来も日本に住むかどうかはわからない。未来の配偶者は日本人とは限らず、むしろそうならない可能性の方が強そうだ。だから、息子は世界中のどこにでも自分の好きな墓を建てればいい。(建てなくたっていいと思う。)息子を縛るようなマネはしたくなかった。
墓に刻む文字について、妻と相談をした。墓地を歩くと「愛」とか「絆」とかが多いようだが、そんなヤワなのは性に合わない。「仁義」というのも考えたが、これは妻の強烈な拒絶反応にあいそうだ。「酔生夢死」というのは好きな言葉だが、なんだか墓の下でまだ酔っぱらってる感じである。「極楽とんぼ ここに眠る」はどうかと妻に訊いたら、案外食いついてきたが、なんとなくふざけ過ぎの感を否めない。いっそのこと、「こら、墓に酒をかけるんじゃねえ。墓石が傷むじゃないか」という注意書きにしようかとも思ったりして…。
結局、唐の詩人・于武陵の五言絶句『勧酒』を刻むことにした。
勧 君 金 屈 卮
満 酌 不 須 辞
花 発 多 風 雨
人 生 足 別 離
これには井伏鱒二の名訳が知られている。
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
ただ、1200年前の人である于武陵はともかく、いくら極め付けの名訳とは言え、昭和の文豪の訳文をそのまま墓に刻むわけにもいくまい。死してなお著作権法違反の汚名を着たくない。そこで井伏訳にインスパイアされたかたちで自分で訳してみた。
君に勧める 金の盃
さあ飲み干そう 思い残さず
花は咲いても散るさだめ
人生はいつも別れの繰り返し
…結局、五言絶句の漢文を刻むだけで目いっぱいで、訳文を入れるのは無理だという話になったのだが(笑)。ま、中国出身の妻はもちろん、息子も中国語に堪能なので、古文とは言えおおよその意味は理解できるだろう。読めない奴は知らん、とはなはだ無責任を決め込むことにした。今月中に最終契約をすませれば9月中に完成。そうすれば消費税は8%ですむ、と最後までセコイ計算が働いている。
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