ぼくは旅をするときガイドブックの類はまず読まない。知らない街をほっつき歩き、
心に留まった風景にカメラを向けるのが楽しみだから。名所旧跡は見落としたところでそれほどの痛痒を感じない。イタリアは〝世界遺産の宝庫〟だから、世界遺産については事前にネットで調べて、ルートを決める参考にしたが…。妻は事前にガイドブックを2冊も買い求めたが、録画していたテレビの旅番組の方が参考になったようだ。
イタリア旅行の3日目はミラノを発ってフィレンツェに向かった。
心に留まった風景にカメラを向けるのが楽しみだから。名所旧跡は見落としたところでそれほどの痛痒を感じない。イタリアは〝世界遺産の宝庫〟だから、世界遺産については事前にネットで調べて、ルートを決める参考にしたが…。妻は事前にガイドブックを2冊も買い求めたが、録画していたテレビの旅番組の方が参考になったようだ。
イタリア旅行の3日目はミラノを発ってフィレンツェに向かった。
(ミラノ中央駅。ホームに美人の車掌さんがいた)
ミラノからフィレンツェまではトレニタリア(旧イタリア国鉄)の高速列車、フレッチャロッサに乗って1時間半。フレッチャロッサはイタリアを南北に結ぶ、言わば新幹線で、ミラノ〜フィレンツェ間はボローニャにしか停まらない。チケットは日本からの出発間際に大慌てでネット購入したが、二人で11000円ほどだから高くはない。イタリアの駅には改札がなく、車内検札も一度来たきり。無賃乗車しようと思えば簡単だなあ…などと思ったものだが、後でヒドイ目にあうとはこの時点では夢にも思っていない。
フィレンツェは3年前にも訪れている。今回、この街だけ再訪することに決めた理由は、前回訪れたレストランの味が夫婦ともに忘れられなかったこと。ぼくの旅には「食べ歩き」の要素が極めて大きい。にも拘わらずガイドブックなどを読まないのは、観光客相手の情報などハナから信用していないからだ。街を歩いていい店を探し出す〝嗅覚〟には自信があるが、言葉の通じない外国とあってはそれもリスクが大きい。こういうときに知恵を貸してくれる人がいるとありがたい。西荻窪の自宅のすぐそばに「upim」というイタリアンがあって、マスターの加藤さんはイタリアで修業した人だから彼の地に詳しい。実際に自分が食べて美味しかった店、
あるいは、イタリア語ができるらしいので、地元の人に評判のいい店を調べて教えてくれる。ジモティが愛用する店であればそれほど高価なはずもない。フィレンツェでぼくたちが感動した「Osteria Vecchio Cancello」も加藤さんが教えてくれた店である。(日本でネットを検索してもほとんど情報が出てこない。)
フィレンツェは生憎の雨模様だった。夕方には、一時バケツをひっくり返したような豪雨になった。妻は3年前にも買物をした革製品の専門店・オッティーノに行きたいという。オッティーノ(OTTINO)は家族経営らしい小さな店で、自社が抱える職人による手作りの鞄などを売っている。革の質がとてもいいし、それでいて値段が安い。同じフィレンツェ発祥の有名ブランド、グッチやフェラガモに比べれば涙が出るほどお得感がある。日本では一部の通販が扱っているぐらいであまり知名度はないと思うが、店に入ると日本人のおばちゃんばかりがいたので驚いた。ぼくらより先に店にいて、ぼくらが帰るときもまだ店にいたが、何を買ったのだろうか?…妻はこの店で3年前に買った財布の色違いを買った。前回は赤、今回はビビッドな青色で、12415円。柔らかい肌触りで、革の質感がとてもいい。ぼくも何か欲しかったのだが、残念ながら男性用は少ない。
(フィレンツェの街はいつも雨が降っているような気がする…)
(フィレンツェを代表する観光名所のひとつ・ヴェッキオ橋)
それからぶらぶらとヴェッキオ橋まで歩く。フィレンツェの旧市街はまるごと世界遺産に指定されていて、名も知らない路地裏を歩くだけで愉しく、飽きない。
(ヴェッキオ橋の上は宝飾店街になっている)
ヴェッキオ橋はフィレンツェの名所のひとつで、橋の上に宝飾店が建ち並ぶ光景は日本人からすると少々奇異だ。ウィンドウショッピングを愉しんでいた妻がその一軒に吸い込まれていった。妻が買物をしているあいだ、ぼくは周辺で写真を撮って待つ。
(宝飾店の奥にあった窓。古風な階段の意匠も含めていい感じ)
宝飾店の奥にあった窓に惹かれて一枚撮った。額縁みたいに河畔の風景が切り取られていて、素敵だ。結局、ぼくはトパーズの指輪を買わされることになった。朝晩、妻がぼくの体をケアしてくれているので、指輪ぐらいで文句は言えない。「黄玉」の名の通り、深い黄色に輝く美しい石で、買った後になってトパーズが自分の誕生石(11月)だと知った妻はとても喜んだ。
…自分の誕生石ぐらい知っておきなさいってw
一度ホテルに戻って、19時、日本から予約しておいた「Osteria Vecchio Cancello」に向かう。駅前のホテルから繁華街の中心とは逆の方向に徒歩5分。
(この店も家族経営なのか、棚に飾った写真は創業者夫妻?)
19時開店で、ぼくらが最初の客だった。随分すいているなと思ったが、1時間もするうちにほぼ満席になった。考えてみれば21時頃まで明るいわけだから、誰も急いで夕食をとろうなんて思わないんだね。偶然にも3年前と同じ席に案内され、3年前にも注文したフィレンツェ名物・Tボーン・ステーキと、サラダにタラのパスタ(タリアテッレ?)を注文した。
(平べったい麺が濃密なスープによくからんでいた)
このパスタがまた、実に上品な味で、おいしい。ワインは御当地トスカーナのキャンティ・クラシコ、ちょっと贅沢にレゼルヴァを注文した。といっても、日本円にすれば3500円ぐらいのものだから、びっくりするほど高いわけではない。東京でこのクラスのワインをこの値段では難しいかもしれない。
(妻をして「夢にまで見る」と言わしめたTボーン・ステーキ)
これがメインのTボーン・ステーキ。注文の最低単位が1kgだが、骨も入った重量なので肉好きの我ら夫婦はペロッと食べる。赤身の肉で特に指定しなくても焼き方はレア、ソースではなく岩塩を振ってある。肉の質もいいが、この食べ方が肉好きの琴線に触れる。ぼくに言わせれば、ステーキにソースをかけて食べるなんざトンデモナイ話だ。肉の旨みを味わうには、表面をこんがりと焼いて肉汁を逃さず、中身はレアに残して塩胡椒程度の味つけで食べるに限る。
このTボーン・ステーキはフィレンツェの名物料理なので、他にもおいしい店があるのかもしれない。でもぼくは、この店で充分である。妻がデザートを食べ、ぼくは仕上げにグラッパを飲み、勘定は〆て14316円(カード払いの日本円換算)。東京で食べるイタリアンの相場を考えても、この値段は決して高くないと思う。生きているあいだにもう一度来てみたい店だ。
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