立久恵峡・御所覧場

神戸出張の帰りに広島に足を伸ばして、
いまは広島に住む両親のところで二泊した。
年末に癌の切除手術をしたので、
元気な顔を見せて安心させてやりたいという、
いたって安上がりの親孝行である。
その後はさらに足を伸ばして
故郷の島根県で温泉一人旅を楽しむことにした。

きょうは広島から高速バスで出雲に入り、
出雲市駅からさらにバスで30分ほど山中に入った
立久恵(たちくえ)峡温泉に宿泊した。


立久恵峡は、
神戸(がんど)川沿いに開けた峡谷で、
北の層雲峡にも似た独特の景観が特徴である。


泊まった宿の名は「御所覧場(ごしょらんば)」という。
変わったネーミングだが、
往年の松江藩主で風流人として知られた松平治郷(不昧公)が、
この場所に立って
峡谷の奇観を愛でたことからつけられたという話だ。
いまでも出雲地方では何かといえばこの不昧公が登場する。
不昧公が好んだという料理や和菓子、茶は不昧流…
統治能力に優れた名君だったという話は聞かないが、
ひたすら趣味人として名を残した殿様である。


雪が舞っているなかを、川沿いの遊歩道を歩いてみる。
宿の対岸に薬師如来を祀った霊光寺という寺があり、
そのそばに五百羅漢がある。


ぼくは宗教心のない人間だが、
こういう素朴な野仏たちには心惹かれる。


御所覧場では、
目の前に峡谷が広がる大変眺めのいい部屋に泊まった。
ちょっとした不昧公気分(笑)である。


この宿には過去に二度ほど泊まったことがある。
はっきり言って、
温泉は加温循環式であり、たいしたことはない。
ただ、食事が旨いのが印象に残っていた。
特に「鯉の糸造り」が美味しかった記憶がある。
鯉はいまが旬なので糸造りを食べたかったのだが、
最近はやっていないそうで、
代わりに寒ブナの刺身を奨められた。


寒ブナ(右上)は身が締まっており、確かに美味。
山の宿とあって、海のものは出さないというこだわりがいい。
茶わん蒸しの中にカニの身が入っていただけで、
あとは茸に山菜、島根牛の鉄板焼き、ぼたん鍋(猪肉)、
さらに神戸(がんど)川で採れた天然鮎の塩焼きが2匹出た。
鮎は季節を外れているはずだが、
香ばしさがあってなかなかおいしい。
酒は地元出雲市の天穏純米吟醸である。

これだけ食べればもう飯はいらないのだが、
気さくな仲居のおばちゃんが、
社長が自分で育てた米だから一口だけでも、
と熱心に奨めてくれる。
そこでごく軽くいただいたのだが、
粘りがあって甘みが強く、本当においしいのでびっくりした。




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