朝食をホテルの近くの函館朝市でとる。たちまち妻の機嫌が悪くなった。おいしくないというのである。その通りには違いないが、「観光」とはそういうものなのだよ、妻よ。
妻は釧路で美味しい魚の味を覚えているので、こと魚介類に対する評価は点が辛いし、的確である。昨夜は函館でも評価の高い寿司屋に連れて行ったのだが、「たいしたことなかったね」の一言で片づけられてがっくりきた。釧路で我が家の近所にある寿司屋の方がもっと美味しいという。これもその通りなのだが、「それを言っちゃァおしまいだよ」みたいな話で、婦女子にホンモノの味を覚えさせてしまった我が身の過失を痛感する。
函館の元町界隈で洋館建築をみて歩いた。古い建物が好きなぼくは楽しかったが、函館に行きたがった妻にとって、どうも総合点は高くないようだ。
もっとも、ぼくには妻のご機嫌を取り結ぶ自信があった。今夜の宿、長万部温泉丸金旅館である。
長万部温泉は、定山渓や登別、あるいは函館の湯の川温泉のようなメジャーな温泉地ではない。かといって、駅から歩いて10分ほどの距離なので、鄙びた味わい、秘湯ムードがあるわけでもない。位置づけとしてはなんとも中途半端な温泉地である。昭和30年に天然ガスを採掘していて温泉を掘り当てたという、北海道にあっても歴史の浅い温泉だ。「丸金旅館」には何年か前、仕事で泊まったことがある。料理が美味しかったのと、何よりお湯が良かったので印象に強い。長万部は毛ガニの名産地なので、ここに泊まれば蟹好きの妻はきっと喜ぶだろうと確信していた。
長万部温泉の泉質は「高張性弱アルカリ性高温泉」。よくある「ナトリウムー塩化物泉」というヤツで、珍しい泉質でも何でもないが、とにかく身体が温まるのがいい。
源泉かけ流しで、素朴な造りの湯船にゆったりつかっていると日頃の疲れを癒される。きのう函館に飛んでくるまで三週間休みなしで働いていた妻も、すっかり喜んで長湯をしていた(ぼくは随分待たされた)。夕食もとても美味しかった。刺身にてんぷら、鍋、茶わん蒸しの典型的な温泉メニューだが、地元の産物ばかりだという一つ一つの食材がよく吟味されており、噴火湾名産のホタテをバターとチーズ(?)で焼いたもの、豚の角煮など、調理の腕も確かである。毛ガニは漁期が6月なので冷凍ものだが、水気が多少物足りないくらいで身も詰まっており、妻はおいしいおいしいと大喜びしながら食べた。毛ガニの命である味噌がたっぷりしているのが何よりである。おばあちゃんの手作りだという漬物が旨いのが、酒飲みには嬉しい。
人に知られた観光地でお金を使うより、こうした穴場の方が当然ながらコスト・パフォーマンスが高い。妻の希望による「函館~小樽~雪まつり」の典型的な観光コースに、渋い長万部温泉を一枚加えたことで、「準道産子」の亭主としては大いに面目を施した格好である。
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