読者数がごく限られたブログとはいえ書けることではないのでボカしてきたが、
実はきょうは「Xデイ」だった。
取材をしてきた旭川の中小企業・T食品が民事再生法の適用を申請、破綻したのである。
T食品のN.S.社長は、15時半、弁護士とともに旭川地方裁判所に民事再生法の申し出をした後、
17時、社員を集めて会社の経営が破綻したことを発表した。
直前まで、破綻とはいいながらも再生の可能性を追うのだと前向きモードだった社長だが、
さすがに親から引き継いで大きくしてきた会社を自分の代で潰すのは辛かったのだろう、
従業員に詫びながら、感極まって声を詰まらせてしまった。
先代からの「番頭さん」であった老専務も号泣、社員の多くも泣いていた。
あたりを憚らず泣いているのが、女性よりも、ほとんど男性社員だったのがぼくには印象的だった。
T食品は昭和21年の創業、
佃煮や煮豆、惣菜を作ってきた会社で、年商は12億円、パートを含め60人の従業員がいる。
佃煮の製造会社としては北海道で最大の規模で、
道産品を中心に原料の質にこだわり、衛生管理もきちんと行い、良質の商品を作り続けてきた会社だ。
しかし、業界の過当競争のなかで、
いい原料を使いながらも価格に転嫁できず、
(値段を上げれば、すぐに中国やカナダからの輸入原料を使っているところにシェアを奪われた)
原料価格が売価の50%を超えるという構造的なコスト高に苦しんだ挙句、
リーマン・ショック以降の消費不況の直撃を受けたかたちで経営が立ち行かなくなった。
もっとも、帳簿上はまだ融資を受けられる状態だったので、
銀行から当座の運転資金を借りて破綻を先送りすることもできたのだが、
(不況対策=選挙対策として、いま政府はじゃぶじゃぶ金融市場に資金を流し込んでいる)
後になればなるほど破綻したときのダメージが大きくなって、
取引先にも迷惑をかけ、従業員を路頭に迷わせることになることから、自主再建を断念したものだ。
幸いにも旭川出身で旧知のS社長(7日の日記参照)が支援を約束し、
T食品の弱点だった営業や商品開発の面でのノウハウ、本州への販売ルートを持っていることから、
一日も操業を止めず、雇用をすべて引き継いでの再生を図ることになった。
Xデイを超えた明日からは、さっそく再生に向けてのドラマが始まる。
(いや、既に新しい商品パッケージの見本ができてくるなど、水面下では動き始めているのだが…)
ぼくはその一部始終を撮って、
2009年の日本(なかでも経済の地盤沈下に苦しむ地方)の現実の一断面を記録するつもりである。
中小企業の経営者は債務の個人保証をしているので、
自己破産という苛酷な現実に直面しながらも、前向きに事態に立ち向かおうとするN.S.社長の誠実さ、
破綻した企業を一ヶ月で立て直そうとするS社長の辣腕と
その裏側にある人情味(破綻の発表のときには思わず貰い泣きしていた…)をきちんと描きたい。
…それにしても、長い一日だった。
N.S.社長にとってはもちろんだが、撮影していたぼくたちにとっても、長く、緊張した一日だった。
取引先や銀行はおろか、社員さえ知らない経営破綻のXデイ。
それを素知らぬ顔でロケをするのは、如何に図々しいぼくでも、けっこうキツイことなのである。
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