岩手県遠野市の市役所で
医師を確保するために奔走する
その名も「市民医療整備室」。
地域で働く医師に来てもらおうと
行政がこれだけ一生懸命動いているところを
ぼくは他に知らない。
きょうは室長の菊池永菜さんに
市内迷岡(まいおか)地区にある
遊休農地に案内してもらった。
医師確保と農地…
一見無関係に思えるが、
実は農業をやりたいという医師の希望に応えて
候補地をピックアップしているのである。
この医師は三十代の整形外科医で、
四月から県立遠野病院で働いている。
菊池さんから農地を捜しているという話を聞いた時には
リタイアした後に農業を始めたい医師がいるのだろうくらいにしか思っていなかった。
それが、医師(「S先生」としておこう)に会って確かめてみると、
自然農法で自ら作った安心できる野菜などを食べさせて子供たちを育てたいとのこと。
(いまS夫人は三人目のお子さんを身ごもっている。)
云わば「半農半医」の暮らしをしようと思って遠野に来た、という話なので驚いた。
自然農法とは、
農薬や化学肥料を使わないのはもちろん、
土を耕さず(不耕起)、
除草もしない農業のやり方である。
作物は本来持っている生命力に従って育つ。
周辺の田畑が従来の農法でやっている場所では
こうした自然農法を行うことは難しいので、
ある程度“隔離”された土地が必要である。
迷岡には、
S先生の希望にぴったりの土地があった。
松林に沿って溜め池があり、
谷あいに今は使われていない田んぼが広がる。
「今度遠野に来たお医者さんで
農業をやりたいという先生がいるのっす…」
男性は半ば趣味のように
先生が気に入れば譲ってもらえるかという
県立遠野病院には整形外科医がおらず、
もう何年ものあいだ
整形外科は休診の状態にあった。
S先生の招請に成功したことで、
地元に必要な医師を確保したうえに、
若い家族を定住させ(農業を始めれば、当然、遠野に永住することになる)、
言葉は悪いが「耕作放棄地」の活用にもつなげることができる。
過疎と高齢化に悩む町にとってトリプル・ウィンともいえそうな「市民医療整備室」の仕事である。
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